26.制服 (闇遊戯×海馬)


「罰ゲームだぜ、海馬。今週は何が何でも学校に来いよ?」
そんなことを言い放った遊戯に、海馬は濡れた蒼穹で睨み返していた。



何とか始業のチャイム鳴り始める前に教室に滑り込むと、そこはいつもと違った雰囲気に包まれていた。
その理由は ―― 教室に入った途端に気がついた。
既に夏服への移行も終わり、女子も男子も白いシャツ上衣になっているその中で、唯一ブルーの詰襟を着込んでいる生徒が一人。
「あれ? 海馬君? 朝から登校なんて珍しいね」
廊下側の一番後ろの席についているのは、学校にはめったに姿を見せないが、童実野町に住んでいるものならば知らぬ者はいないといわれる海馬瀬人である。
黙っていれば絶世の美人で、その頭脳は高校の教師ごときでは到底太刀打ちできなくて。
更に年収にいたっては…自信をなくすサラリーマンが続出することは間違いない。
そして更に言えば ―― 『綺麗な薔薇には棘がある』という格言を実証する存在である。
だからつい引き込まれそうに見入ってしまいつつも、同じクラスの生徒であっても決して声などかけられないというのが定番なのだが、
「今日はゆっくりできるの、海馬君? ね、お昼は一緒に食べようよ♪」
そんな風に何の気兼ねも無く声をかけられるのは、童実野町、いや、日本広しといっても決闘王の名を持つ武藤遊戯くらいなものである。
「断る。貴様らと食事など、消化の悪い事はできんわ」
「そんなこと言って…どうせお弁当も持ってきてないんでしょ? 大丈夫だよ、ボクが半分分けてあげるから」
確かに授業の開始にはまだ時間がある。だが既に海馬の机の上にはKCのスーパーコンピューターとリンクしているノートパソコンが開かれており、おそらく、下校の瞬間まで閉じられることは無いはず。
それこそ、昼食だって ―― サプリでも食べればいいほうだと思うほど。
だが、
「それが迷惑だといっておるのだ!」
サッと取り澄ましていた蒼穹が更に深みを増して、白い肌が薄く紅潮する。
「貴様の言った通り、登校はしてやった。ここで何をしようかまでは関係なかろうがっ!」
「…ってことは、またもう一人のボクとの罰ゲームってこと?」
「 ―― っ!」
そうだ!といえば簡単なこと。だがそれを言えば、負けたことを認めるということで ――
「ええい、とにかく俺の邪魔をするなっ!」
バンッ!と思い切り机を叩けば、びっくりした拍子に遊戯の表情が一変した。
「海馬、貴様っ! 相棒を驚かせるなっ!」
「フン、この程度でビクつくとは、肝の小さいヤツめ。驚くくらいなら、最初から声などかけてくるなっ!」
そういいながらも、遊戯がもう一人の人格と替わった途端どこかぎこちない気がするのは ―― 気のせいではないようだ。
「大体、上期賞与前のこの忙しい時期に登校しろなどと、貴様、わが社の売り上げに影響が出たらどう責任を取るつもりだ!」
勿論そんなことは理由にならないことは判っている。だが、ふてぶてしいまでに我が物顔でいる遊戯を見ると、つい嫌味の十や二十でもいいたくなるもので。
だが、そこはやはり遊戯のほうが上手だった。
「フン、そんな柔な会社じゃないよな、KCは。なんたって、お前が率いてる会社だろ?」
「当たり前だっ!」
「じゃ、今日は昼も一緒に食おうな♪」
「 ―― っ!」
やられた、と思ってもとき既に遅しとはこのこと。海馬は忌々しく遊戯を見上げた。
その一方で遊戯のほうは
「しかし、お前。その格好じゃあ暑いだろ? 全く、制服くらい夏服に替えて来いよな。まぁせめてボタンくらい外したらどうだ?」
そう言って何気なく手を伸ばして海馬の襟のボタンを手馴れた仕草で外した途端 ――
「きゃあ♪ 海馬君っ!」
「うわっ…マジ? すげえ…」
女子は黄色い声を上げ、男子はごくりと息を飲む。
そこに見えたのは、日に当たらない白い肌に浮かぶ無数の花びらのような印で。
勿論つけた張本人である遊戯には見覚えのあるものである。
だから、慌てて海馬は襟元を抑えたが ――
「き、貴様っ! 勝手なことをするなーっ!」



「そうなんだよな。ちゃんと夏の制服を用意しておいたのに、兄サマってばどーしても今日は詰襟で行くって言い張って」
夏の女子の制服は、肌が透けて見えたりすることがあるか色っぽいなんていう話を本田と城之内がしていたとかで、それならば海馬のほうが絶対に色っぽいだろうと確信していた遊戯だったのだが、
「貴様のせいでいらぬ恥をかいたわっ!」
その後暫く、遊戯が海馬邸立ち入り禁止になったのはいうまでもない。





Fin.

前に、拍手のSSでも書いたようなお題ですが、今回はシャチョは詰襟です。
因みに、クールビズが世の習いになってもシャチョにはビジネスでは白スーツを希望ですね。

でもって、デュエルのときの制服は、やはりいつもの白コートでv

2005.06.18.

Atelier Black-White