33.変装 (闇遊戯×海馬)


長かった期末試験が漸く終了したその日、
『試験勉強で逢いに行けなかったでしょ? 明日は丁度試験休みだし…今から行って来たら?』
そう言って、試験終了とともに身体を貸してくれた相棒の好意を無駄にするのは悪かろうと、学校から直接海馬邸に向ったもう一人の遊戯は、いつものようにベランダから目的の部屋に忍び込んだ。
こんな時間にいるとは思えないから、帰って来るまでベッドで寝ていてもいいだろうと思い。
ところが、珍しくその部屋は、留守ではなかった。



「どこに行くんだ?」
「貴様には関係ない」
あいかわらずの素っ気無さは ―― それが2週間ぶりの来訪でも変わらないところだ。
だが、
「仕事 ―― じゃないよな?」
基本的に仕事のときの海馬は白のスーツ姿が多く、細身で長身のその姿はKCの女子社員だけでなく相手先の重役クラスまで悩殺すると言われている。
一方で、デュエルのときはお決まりのデュエルコート。その独特のコスチュームはフィギアも密かに販売されているというほどの人気で、こちらは小学生やその父兄にまで絶大な人気とのコト。
尤も、パリの一流モデルでも立ち打ちできない美貌ゆえに、何を着てもその場だけがスポットライトを浴びたかのように視線を集めるのは間違いが無いのだが ―― この日の海馬はセーターにスラックスという、一般の人間が見れば極普通の格好をしていた。
勿論、極普通といいながら ―― 実は高級カシミアセーター&某有名ブランドのビンテージスラックスであることは言うまでも無い。
「仕事じゃないなら…どこに行く気だ?」
「貴様に断るいわれは無いはずだ」
速攻で返事を叩きつけながら、海馬はふと訝しげに遊戯の方を見ると、
「それに ―― 何故、出かけると判る?」
そう尋ねてきた。
「え? だって…お前がそんな格好をするなんて、珍しいだろ?」
「そんな格好だと? どこかヘンか?」
「いや、ヘンじゃないけど…」
「だったら何故だ? 目立つ服装ではないはずだぞ」
そう聞き返されて、遊戯は答えに詰まった。
童実野町だけでなく、海馬はアミューズメントの世界において、その名を知らぬものはないといえるほどの有名人である。
それは若くして社長という地位にあるというのも事実だが、それ以上に、何をやっても目立たずにはいられないからでもある。
日本人離れした長い手足に、均整の取れた長身で。柔らかそうな栗色の髪に、白皙の素肌。さらには蒼穹を思わせる瞳に ―― と。黙っていればその美貌で世界を手にいれるのも容易いとさえ思わせる。
だが、それだけの類稀な美貌の持ち主ではあるが、肝心の本人は生憎外見などというものには全く価値を感じないらしく。
殺気や敵対心などといったものには聡くても、羨望や欲情といった視線には全く気が付かない海馬である。
「いや、お前の場合は何を着ても目立つと思うけどな」
「何? これでも俺が目立つという気か?」
いかにも心外と聞き返す言葉に、何故気が付かない?といいたくなるのは、遊戯の方だ。
「…なんだ? 目立ちたくないって…まさかお忍びでデートでもする気じゃないだろうな!」
それなら、即刻相手を罰ゲームで再起不能にしてやる!といわんばかりの遊戯に、何を馬鹿なことをいっているとでも言わんばかりの海馬は、呆れたように応えた。
「忍びは正解だが、デートではない。モクバの授業参観だ」
「はぁ?」
思いもかけない内容に、遊戯は気をそがれた反面、すぐに納得していた。
確かに3000年来の恋人には滅多に時間を作ってもくれない ―― どころか、時間があっても追い返そうとする海馬である。唯一、仕事を削ってまで時間を作るとすれば、それは最愛のモクバのためしか思い当たらない。(もしくは青眼かレアカード…?)
どうやら、最近の小学校では、親子のふれあいだとか教師とのコミュニケーションだとかで、何でも学期に1回は授業参観などが行われているらしい。それが丁度この日で、しかも今日の授業参観は1日中がその対象だとか。
つまり、どの時間の授業を見に来るのも父兄の自由だとかで、偶然会議が中止になって時間が空いたので海馬も出かける気になったとのコト。
ところが、何せモクバは小学生。その授業参観となれば、当然出向く先は小学校である。
これが例え高校や大学でも、あの海馬瀬人が来たとなれば ―― その騒ぎは尋常でないことなど想像に容易く、しかも小学生などとなれば、それこそ授業どころではなくなることも眼に見えている。
どうやらその辺りのことを磯野あたりから忠告されたようで
「だから、少しでも地味な格好で目立たないように…ってわけか」
(オレには、時間が空いても追い返すくせに…この差は何だよ)
と言いたいところだが ―― 言えば、情け容赦なくその程度の差だと言われかねない。
そもそも何を着ても目立つ海馬であるから、そんなことは無駄だとしか思えないのだが…。
「生憎、これ以上地味な服などないからな。だが…コレでも目立つとなると…やはり授業参観は取りやめた方がいいかもしれんな」
そうフッと溜息をついて呟く姿は、酷く残念そうに見えた。
「でも、折角、時間が取れたんだろ? モクバだって楽しみにしてたんじゃないのか?」
そう、海馬は若くして社長という身分。それでなくても多忙を極めているのは周知のとおりだ。
だが、兄思いのモクバは、例え自分が寂しい思いをしても、きっと海馬に我侭はいえないだろうから。
「…仕方があるまい。授業の邪魔はできん」
自分の授業は迫害も気にしないくせに、モクバには極力普通の小学校生活を送らせたいという海馬である。
その思いやりの10分の1でもいいから自分にも向けて欲しいと思う遊戯だが、
「…しょうがないな。じゃあ、オレがコーディネートしてやるぜ」
そして当然のように室内にあった内線電話を取ると、どこかにかけた。



そして、約1時間後 ――
用意された服に着替えた海馬は、鏡に映して
「ちょっと待て、何だコレは! 大体、何故貴様まで着替えているっ!?」
「だって、授業参観だろ? 夫婦で見に行ったほうが、子供は喜ぶぜ?」
「夫婦だとっ! 貴様と結婚などした覚えは無いわっ!」
「まぁまぁ細かいことは気にするな。少なくとも、お前が男だとは思えないから」
ミニスカスーツの海馬に、背広姿の遊戯。
その姿を見たモクバがなんというかは ―― また別のお話。





Fin.

ミニスカスーツの海馬ママですね。
ええ、きれいなお母さんは好きですか?という感じで。
(↑これの元がわかる貴方は同年代?)
しかし…遊戯パパは、どっちかといえば変装というよりは仮装じゃなかろうか?とか。
(もしくは七五三?コラコラ…)

新年早々がコレです。ええ、浅葱的にはね。(笑)

2006.01.09.

Atelier Black-White