IN THE BED−10日分の溜息− by わんこ様(Sophist's Room)


「残念だったな、来週は出張だ」

チェスの駒を進めながら海馬はどこか嬉しそうに言った。

「いつからいつまでだ?」

黒いビショップを進めて白のルークをとる。
海馬はピクリと眉を動かしたが、それでも遊戯が面白くなさそうな顔をしたのが愉快なのか、機嫌よさそうに白のナイトを進める。

「土曜の朝から月曜の夜までだ」
「ああ、じゃあ、1週間会えないのか」

遊戯がポーンを進め、海馬のクイーンがそれを取る。

「いや、予定は10日間だ――チェック」
「……オマエな」
「どうしだ、さっさと駒を動かさんか」

遊戯は溜息をついた。

「別にゲームのことを言ったわけじゃないぜ――チェックメイト」
「……貴様……」
「そう、いきり立つなよ。ほら、約束だぜ、おとなしくしろよ、海馬」

チェス版の上に手をついて身を乗り出し、くちづける。
駒がテーブルをバラバラと転がって音もなくカーペットに沈んでいった。





出張前の夜に散々手加減なしに抱いたとはいえ、これだけ長く会えない穴埋めになるわけではない。

(はあ……会いたいぜ海馬……)

がっくりとベッドの頭を沈めた。
相棒は今現在風呂に入るためにパズルは部屋に置きっぱなしだ。一人の時間を満喫してね、と言って笑っていたが、今の自分には満喫どころではない。

はっきり言って猛烈に寂しい。

それにこれだけ長いことヤっていないとなると身体にもストレスがかかる。
健全な青少年という証明にはなるが、そんなことはちっとも慰めにならない。

(ちょっと待てよ……)

遊戯はあることに気がついた。

(健全な青少年って言うのは海馬も当てはまるよな……。触ればタつし、あれだけイかされても次の日ちょっと休めば昼過ぎには元気になるわけだし……)

ガバリと起き上がる。

(そうだぜ。海馬だって絶対今頃ムラムラしてる身体をもてあましてるはずだぜ!)

だが、自慰行為をする姿など想像もつかない。
遊戯とするときでも仕方なさそうにしているくらいだ。
最終的には受け入れるから、嫌いということではないのだろうが、それにしても積極的だったことなど、そうない。

(でも、まるでなかったわけでもないんだよな……)

と、言うことは性欲はあるはずだ。ただ、それが人よりも薄いというだけの話だろう。

(いくらなんでもこれだけ間が開けば海馬だって溜まるはずだぜ)

海の向こうで、一人の夜に、ベッドの上でどう思うのだろう。

(たとえばこんな感じか?)


湯上りの火照った身体にバスローブを一枚引っ掛けただけの姿でベッドに横たわり、あの綺麗な形の指を身体に這わせていくのだろうか。
小さなくちをわずかに開いて声が漏れてしまうのを押さえながら下肢に手を伸ばして――

(……それじゃあ、この前城之内クンが相棒に貸してくれたビデオの内容そのままだぜ)

海馬が自ら脚を開き、身も世もなく乱れたりするようには思えない。

(いや、オレがさせれば話は別だろうが……一人じゃそんなことはないか……)

ならば、と普段の海馬からありえそうなシチュエーションを考える。


ホテルの部屋に帰っても仕事を続けているうちに行き詰って手を止める。 
気分転換にワインを少しだけ傾けて濡れた唇を指先でなぞり、そうしているうちにだんだんと触れていく場所があちこちに広がって――

(いや、それはありえないだろ、オレ……!)

セックスは風呂に入ってから出なければ嫌だという海馬がそんな風にスーツのままするはずがない。

(……しかし、これはこれでいいか……)

今度罰ゲームに組み込んでみるのもいい。

(ちょっとまて。オレは海馬が一人でするところを想像しようとしているんだったぜ!)

うっかり違うほうに思考がいってしまいところだった、と――いずれにせよ、想像されている方からすれば迷惑極まりないことに違いないが――軌道修正をする。

(海馬がもしするとしたら、風呂に入って、パジャマに着替えて布団に入ってからか)

シルクの肌触りのいい海馬のパジャマを思い出す。
シルクは肌触りがいいだけではなくて薄いからその上から撫でても十分刺激が伝わるらしい。
わき腹から腰、を撫で下ろしていくとビクリと小さく身体が震えるのが分かる。

(そうそう、こっちだぜ、海馬にありえるとしたら)

うんうん、と頷きつつ、その先を想像する。

自分で自分の身体に触れることに嫌悪しながら、それでもとめることができずに手を這わせていき、控えめに乱れる呼吸を羽毛布団で押し隠し、誰が見ているわけでもないのに羞恥に顔を赤く染めるのだ。

(そうだぜっ! これだっ!!)

よしっ!! と、ガッツポーズをとっているところでいきなりドアが開いた。

「もう一人のボク……人のベッドの上で何してるの?」

『え……あ、いや……』

いつの間にかベッドの上に立ってポーズを決めていたらしい。
「あのさ、ポスター撮りの時とかのポーズの練習とか……気持ちは分かるけどさ、ちょっと恥ずかしいよ……」
『あ、相棒……これには訳が……』
「ううん、いいよ、無理に言い訳なんかしてくれなくっても」
にっこりと微笑まれ、闇の遊戯は言葉を失った。




「こんなに長いこと会えないでいても平気なんだろうな、オマエは」

久しぶりだというのに、こんな風に言ってしまったのも無理はないだろう。
ようやく触れることができて遊戯は楽しくて仕方がなかったのに、海馬の反応はまるで変わりなかったからだ。久しぶりだから盛り上がってもいいよな、と、思っていたほうからすれば肩透かしもいいところだった。
恨み言の一つや二つ、出たところで仕方がないだろう。

「オマエにとってはたいしたことはないんだろうが、オレには長かったぜ」
「寂しいならばお友達とやらに遊んでもらえ」

がっくりとベッドに沈み込む。
寂しかったなどと言ってくれるはずはないと分かってはいても、そのあまりにもそっけない返事はないだろう。

(つまり、オマエはこれっぽっちも寂しくもなんともなかったってことか)

寂しくて仕方がなかったと、かわいいことを言ってくれなくてもいいから、せめて少しくらいは会えて嬉しいという反応をして欲しい、そう思ってはいけないだろうか。
遊戯が横になったことで海馬の顔が近づいた。
つい羽目をはずして手加減なしで抱いてしまったから、海馬は身を起こすこともつらいのだろう。
終わってから起きる気配もなかった。
後始末をして、ベッドに座っていたから今まで気づかなかった。

近くで、同じ目線で見れば、海馬のわずかな表情の違いが分かった。

いつもと殆ど変わらない。
しかしその目の青の色はほんの少しだけ違って見える。

(なんだ……そうならそうだって言えよ)

遊戯は苦笑した。

「頭をおくなら静かにやれ。シーツに刺さる」
「いくらなんでも髪の毛は刺さらないぜ」

そのくせに言うことはかわいくないよな、と思いながら遊戯は海馬に自分の額をくっつけた。
距離が近づき、海馬は目を泳がせる。
こんな風に近くで見つめられるのは苦手なのだろう。

「オマエはオマエだろ。他の誰かで穴埋めできるものじゃないぜ」
「ふん、言っていろ」

すぐに押しのけられて、背を向けられたが、反転しながら目じりが少しだけ赤くなっているのを遊戯は見逃さずに後ろから抱きしめた。


カーペットの上に久しぶりに転がされたチェスの駒が月明かりに反射して光っていた。

小早川浅葱サマより20000キリリク
「IN THE BED −一人分の吐息−」の王様視点バージョンでした。

王様視点ということで最初はドキドキしてしまいましたが(笑)
このような感じに落ち着きました。
社長の前ではカッコつけてたくせに、一人になったとたんに
かっこ悪くなってしまう王様のギャップを笑っていただければと思います(笑)

浅葱サマ、楽しいリクエストをありがとうございました〜vv



小心者の浅葱が、またもや悪魔の力添えで20,000Hitを踏んでの 強奪 頂き物です
もとは、わんこ様が先に書かれていた「IN THE BED−一人分の吐息−」の王様版です。

なにせ、 「笑いの取れるリクをせねばっ!」とミョーな信条を持っている浅葱ですので、
最初は「王様の@@?!」と驚かせてしまったリクです、はい。

わんこ様のところでは、同じシチュエーションでありながら、
王様と社長バージョーンでは思いっきりすれ違っているギャップが本当にお上手で。
本当にいつも楽しませていただいております。


2005.04.03.

Atelier Black-White