May I help your sweet night ?

− 尚樹&祐介 −


「『恋人との甘い夜の為のお手伝いをさせていただきます。是非ご来店ください』…?」
当然、ウイルスもスパムメール対策も施してあるはずなのだが、そのメールはご丁寧に「五十嵐尚樹様へ」としっかり名指しである。
そして差出人は、「K&F」となっており、紹介者は ―― 同じ生徒会役員の草嶋和行となっていた。
だから、
「あいつ…絵野沢先生をユウワクできなかった腹いせか?」
そう呆れたように呟きながらも尚樹はメールに記された住所を脳裏に書き留めると、どこか楽しそうにニヤリとほくそ笑んでいた。



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「ここだな」
大通りから少し中に入ると、尚樹は暗記していた住所の場所に迷うことなくたどり着いていた。
それはまるで前から良く知っているかの様子で、
「ここ…ですか? どんなお店なんですか?」
いつもの通り、尚樹のエスコートに任せてついてきた祐介は、その一見シンプルな店構えに何の店か想像できなくて尋ねた。
しかし、返ってきた答えは、
「さぁな。何だろうな?」
「え? 尚樹先輩も知らないんですか?」
とても初めてとは思えないほど当然のように連れてこられたのでびっくりして聞き返すが、
「…祐介。ペナルティだぞ」
質問には答えずにそう告げると、途端に祐介は頬を赤らめた。
「え? あ…ごめんなさい。尚樹…さん…」
「全く。なかなかその癖は抜けないな」
そう言って、だが優しく微笑むと、尚樹は照れて真っ赤になっている祐介の腰を抱くようにして店に入った。
「あ、あの…尚樹セ…さん!」
どう見たって男同士である。幾ら最近では日本でも性に対する考え方はオープンになりつつあるといっても、やはり外では恥ずかしいものだ。
しかし、
「いらっしゃいませ」
そう言って出迎えた若い女性 ―― どうやらここのオーナーらしい ―― は、全く気にもせずにニッコリと微笑んだ。
勿論、尚樹もしゃあしゃあとしたもので、
「知り合いからここを紹介されたのですが?」
しっかり祐介の腰を抱いたままというのに、全く気にしたそぶりも見せずに、いつもの完璧な外面で声をかけた。
すると、
「はい、承知しております。五十嵐尚樹様と唐沢祐介様ですね。どうぞこちらに」
まるで今日のこの時間に予約でもしていたかのような口調である。
これには流石に尚樹も驚いたが ―― 勿論そんなことはおくびにも出しはしない。
寧ろ、
「え? 何で僕の名前まで、知ってるんですか?」
あまりの驚きに腰を抱かれてエスコートされていることを忘れた祐介が尋ねた。
すると、
「草嶋様からお伺いしておりました。とても高校生には見えない立派な方と、かわいらしい方のカップルだ、と」
「かわいらしいだなんて…そんな///」
「あら、そんなことはありませんわ。唐沢様は本当にお可愛いですもの。ねぇ、五十嵐様」
「ああ、勿論だな」
勿論そこには社交辞令も入っているのだろうとは思うところだが、それでもそんなことを言われるとすぐに照れてしまう祐介である。
そんなところも可愛くて ―― 尚樹には眼が離せないところなのだ。
「そうそう、申し遅れました。私、この店のオーナーをしております藤原と申します。お二人のお手伝いが出来ましたら、心から光栄ですわ」
そう言ってニッコリと微笑むと、オーナーは店の奥へと案内した。
「どうぞごゆっくりご覧下さいませ。お気に召したものが見つかれば幸いです。また、お取り寄せやご希望にあわせたオーダーも承りますので、ご遠慮なくお申し付けください」
そう言うと彼女は二人を奥の部屋に案内し、壁の電気をつけた。
やや落とし気味の照明に包まれたその部屋には、ほんのわずかに甘い匂いが立ち込めている。見れば部屋の四隅にキャンドルが炎を揺らめかせており、どうやら匂いの元もそこからきているようだ。
「ここから先は特別なお客様だけしかご案内しておりません。また、ごゆっくりお選びいただけますよう、私も暫く席を外しますので、何かありましたらご遠慮なくお申し付けくださいませ」
そう言ってオーナーが席を外すと、祐介は興味深そうに室内を見回した。
「ここって、一体何のお店なんでしょうね? 草嶋先輩の紹介って言ってましたけど?」
祐介がそう尋ねるのも無理はないところだろう。特別というだけあって余り広さを感じない部屋だが、その部屋の壁には可愛らしい洋服やファッショングッズがかけられている。
その一方で、近くのショーケースの中はキャンドルやポプリのようなアイテムがあるかと思えば、妖しげな薬のようなものや、更には手錠や首輪、足枷のようなものまで陳列されていた。
「お洋服やさんなんですかね? 最近のファッションって、僕にはよく判らないんですけど…」
それにしても、服のバリエーションは多岐多彩だ。どこかの学校の制服としか思えないブレザーやセーラー服があるかと思えば、一方ではナースや婦人警官らしい制服まである。
流石にこれだけの種類の服があれば、祐介にも想像はついたらしく、
「もしかして、ここって、コスプレのお店ですか?」
そう尋ねた祐介に、尚樹はクスリと笑みを浮かべた。
「そうだな。まぁそういうのもあるようだな」
勿論それだけではなくて、更にその奥のショーケースにはもっと妖しいものも置いてあるようだ。
だが、そこまでは気がついていない祐介は、
「へぇ〜凄いですね。でも、確かに女の子がこういう服着たら、可愛いですよね」
そうニッコリと微笑んで見ている先には、俗に言うメイド服というのがあって。
「尚樹さんだったら、こういう服を着たメイドさんに傅かれるのも絵になりますよね。ご主人様って感じで、カッコいいんですもん」
そんな風に少しうっとりと呟いているのは ―― いつもよりかなり大胆な感じだ。
それは恐らく、この部屋に焚かれているアロマのせいで。どうやらごく僅かながら媚薬成分が入っていることに、尚樹だけが気がついていた。
だから、
「そうか、俺がご主人様か。だったら祐介は俺専属のメイドにしたいな」
そんなことを祐介の耳に囁けば、
「え? 専属…ですか?」
途端に頬をピンクに染めて、祐介は潤むような目で見あげた。
「ああ、俺だけの可愛いメイドだな」
「尚樹さんだけ…の? 嬉しいです…」
「じゃあ、これを貰おうか。勿論、着てくれるよな、祐介?」
「はい、尚樹さんが望むなら…」
まるで催眠状態のようだが、うっとりと応えながらもどこかで意味は判っている様だ。少し恥らうように、それでいて既に感じ始めているのか身を寄せてくる様は酷く色っぽい。
勿論そんな姿、いつもなら二人きりのベッドの上でしか見せないものである。
(クスリとかには弱いのは知っていたが…ここまで効くとはな。これは速く帰った方がよさそうだ)
そうとなれば、少しでも速いほうがいい。
「じゃあ、包んでもらうからな。ああ、ついでに祐介に似合いそうな小物も揃えておこう。ちょっとここに座って待っていろ」
そう言って休憩用においてあるソファーに祐介を座らせると、尚樹はオーナーを呼び、早速何点か衣装を選んだ。
「そうですね。それでしたら、こちらのエプロンもお似合いだと思いますわ」
「ああ、確かに似合いそうですね。ではそれも頂きます」
「あとは…唐沢様だけではムードも半減ですわ。できましたら、五十嵐様にもこちらなんかどうでしょう?」
「俺も? …まぁいいでしょう。じゃあ、それも包んでください」
「ありがとうございます。ではこちらは私からのプレゼントということで付けさせて頂いて…こんな感じでいかがでしょう?」
「ああ、いいですね。支払いはカードで構わないですか?」
「はい、結構です。どうもありがとうございます。」
そんな楽しそうな会話をうつらうつらと聞きながら、祐介は尚樹に支えられるように店を後にした。



そんな2人を見送って ――
「…あ、草嶋君? ええ、たった今、お帰りになったわ。本当に、草嶋君が言ったとおり。ステキなご主人様と幼な妻って感じで…尚樹さん、唐沢君のことが可愛くて仕方がないって感じだったわ。そうそう、勿論、例のをセットで買われて行ったわよ。フフフ…できたら着ているところを見てみたかったんだけど…それは想像で我慢するしかないわね。それじゃあ、またね」
携帯電話でこの店の企画担当にそう報告すると、オーナーは楽しそうに店に戻った。
そして、
「さて…と。次のお客様のために、下準備をしておかなきゃね♪」
次の来客のために、新しい趣向を楽しんでいた。



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