Fugitive 60


「ああぁっー!」
幸斗の白い身体が仰け反るたびに、悲鳴が迸る。
リングを外されたときに一度、そしてそのあとも何度か精を放っているためにもう吐き出すものは何もなく、身体は限界に近かった。
それでも過剰なクスリによって強制された感覚は快楽を求めてしまい、何度も何度も絶頂に上り詰め続けている。
それが判っているから、裕司は殊更に焦らすように愛撫を加え、幸斗の狂った身体を宥めていた。
既に手足の拘束も解き放っているため、幸斗はまるで溺れるもののように縋りつき、裕司の背中に爪を立てている。
そんな痛みなど、傷つけられた幸斗のことを思えばなんともなくて。
ただ、必死になって縋ってくる姿だけが愛おしい
「やっ…ああっ…はぁっ…」
「ここも気持ちいいのか、幸斗?」
「ああっ…ん…い…いっ…!」
何度も精を吐き出している幸斗とは反対に、裕司の方はまだ一度も達していない。
そのために幸斗の蕾に突き入れられている楔は大きく硬く、その圧迫感は先程まで入れられていたバイブレーターなどとは比べようもなかった。
だが裕司の方も、流石にそろそろ限界が近い。
何度も他の男を咥え込み拡張の処置までされていたにも関わらず、幸斗の感度と締め付けは慣れた裕司でも溺れそうなくらいで。
遊びでなら、淫乱に調教された男娼相手をしたこともある裕司であるが、そんな比ではない。
ぐちゅぐちゅといやらしく飲み込みながら締め付けてくる幸斗の中は本当に淫らで、凄まじい快感と支配欲を助長させる。
これならば男娼として ―― それこそこの身体一つで、国の要人に取り入ることも可能だろうと思えるほどだ。
巧くすれば海外の王室にだって入り込み、一国を自由に操ることもできるのでは、と。
しかし、
「お前は…誰にも渡さないからな。俺の側にいろよ?」
「んっ…う…っん…! はぁっ…も…やぁっ…!」
身体はどんなに淫乱でも心の純粋さは変わることはなく ―― その奇跡が裕司には更に愛おしい。
そして、
(っ…凄い…締め付けだな。流石に俺も…)
自分もそろそろ限界だし、先程まで爪を立てていた幸斗の腕も力が入らなくなってきていた。
幾ら強力なクスリとはいっても、肝心の身体が使えなければそれ以上の効果は望めないはずである。
だから、
「一緒に…イクか?」
そう囁けば、既に力をなくしかけていた幸斗は裕司の胸にしなだれるように溶け込んで、
「んっ…い…しょ…イ…きたいっ…」
イきたいといっても、もう吐き出すことなどできないのは判っているのに。
それでもそうやって強請る幸斗が愛しくて ――
「愛してる、幸斗。お前は…俺のものだ」
そう耳に囁いて覆いかぶさると、激しく己を突き入れ、その最奥に欲望の全てを吐き出していた。


−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−


翌日 ――
流石に昼近くまで部屋に篭っていた裕司だが、まだ目を覚まさない幸斗の身体を名残惜しそうに離すと、階下の加賀山に逢っていた。
そこには、今回の件を知らされて急遽馳せ参じた大前の姿もあった。
そして、
「折角貸してくれるって言ってんだから、もうちょっとここで休んでいけば?」
加賀山が呆れるようにそう提案するが、裕司はあっさりと否定した。
「いや、どうせ休ませるなら、ちゃんと落ち着いたところにしてやりたい。大前、至急、手頃なマンションを用意してくれ」
「それは構いませんが…」
相手は仮にもいざこざのあった組の男娼。
この先、何らかの問題が起きないとは限らない。
しかし、
「幸斗を捕まえたのは俺だからな。もう、逃がす気はない」
そう応えて眠っている幸斗を迎えにいく裕司の後姿を見ながら、昨夜はその後の対応などで徹夜を余儀されなかったはずの加賀山は、眠気覚ましに用意させていたワインのコルクを捻った。
「こりゃあ、幸斗君もエライのに惚れられたな。ま、それが本望かもしんないけど?」
そうして裕司にもと用意させていたグラスに並々と注ぐと、一人で祝杯を上げていた。






Fin.





59


初出:2007.04.22.
改訂:2014.11.03.

Studio Blue Moon