Fugitive 59


支えていなくても充分に立ち上がった雄茎から白濁が飛び散っている。
その殆どは白い腹の上に零れ、そのまま臍や脇腹に向かって筋を作っていた。
一方で幸斗の腕は頭の上に、足は大きく開かされてベッドに貼り付けにされた姿である。
そんな状態で絶頂を迎えている姿は、ただ淫らというだけではすまなかった。
しかもどうやらオーガズムは続いているらしく、閉じることもできない口の端からは涎がたらりと零れ、それが更に淫猥さをかもし出していた。
恐らくこの姿を見れば、どんな堅物の聖職者でも虜になって背信するのではないかというほどの淫らさで。
だがそれも幸斗の望んだことではないと判っているから ―― 心が痛い。
「幸斗…」
ドライオーガズムのためにヒクヒクと震えている身体にそっと口付けると、
「ああっ!」
それだけで幸斗の体は過敏に反応する。
裕司は、枕元にあったピッチャーから水をグラスに注ぎ口に含むと、そのまま幸斗の柔らかい唇に重ねた。
―― ゴクッ…
細い喉がゆっくりと動き、口移しされた水を飲み込む。
それを何度か繰り返して喉を潤わせてやった後に、裕司は静かに唇を項から胸へと這わせていった。
「やっ…んっ…」
冷やされた唇がくすぐったいのか、幸斗が切ない声を上げながら仰け反る。
それが逆に胸への刺激を請うかのようで、裕司はクリップで挟まれた乳首を舐め上げた。
「ああっ…ん…」
ゆっくりとつつくように舐めながらクリップを外してやる。
そして同じように反対側も外すと、幸斗はとろけたような喘ぎ声を上げていた。
幸斗の雄茎は既に硬く立ち上がっている。
しかも、今度はせき止めるものがなにもないから ―― その蜜口からは透明な蜜が滲み始め、裕司の体に纏わり、糸を引く。
「ああっ…ん…いや…ぁ…ん…」
「気持ちいいか? 幸斗…」
「ん…いいっ…い…よぉ…っ」
だらしなく開いた唇からは、最早理性の欠片も感じられない。
今この状態の幸斗にあれこれと命じれば ―― それこそこの快感のためにどんな破廉恥なこともすることだろう。
そんな嗜虐性さえ湧き上がってきそうなほどの淫乱さに、裕司の方までもが理性を保ってなどいられなくなりそうだった。
ある意味では、幸斗を手に入れる絶好のチャンスかもしれない。
快楽に溺れさせて自分だけのものにするのなら。
だが、
「いいっ…い…よぉっ…おねが…きて…っ!」
どんな不能者でも一瞬で野獣に化すのではないかと思えるほどに淫らな声が男を求める。
それがクスリと今までに与えられた調教のためだということは判っているから ――
儚く微笑む姿が愛しくて、優しくしてやりたいと思っていた。
傷ついた姿が哀しくて、守ってやりたいと思っていた。
一人で泣いているのだろうと思う姿が痛くて、心から愛してやりたいと思っていた。
それが ―― こんなカタチで抱くことになるなんて、と。
ところが、
「きて…ほし…の…ゆうじさ…ん…っ」
「ゆき…と…?」
切れ切れの吐息の中に確かに自分を呼ぶ声を聞いて、裕司は息を呑んだ。
幸斗の表情は、既に白痴に近いのではと思えるほどに理性も正気も失っている。
だが、しかし、
「ゆうじ…さんっ…たす…て、ゆう…」
涙を流しながら懇願する姿に、打算や理屈は考えられない。
それでも助けを求めて名前を呼ぶということは ――
「幸斗…ああ、俺が助けてやる」
こんな状態だからとか、そんなことはどうでもいい。
今は幸斗を望むままに愛してやりたいだけで ――
「ちょっと辛いが…我慢しろよ」
「っ…ぁ…ああっ!」
そっと包み込むように勃ち上がった幸斗自身を口に咥え、そっと先端を舐めてやる。
それだけで、先程までスティックを飲み込んでいた蜜口からは透明な液を滲ませ、零れている。
そうして前の刺激に身を委ねさせておきながら、そっと蕾に指を這わせてマッサージをするようにその中心へと指を潜らせると、
「…っぁ…あっ…ああっ…!」
ギシギシと押し込められたバイブレーターに当たり、幸斗の身体が仰け反った。
だが、
「やっ…いやぁっ!」
まるで内臓を鷲づかみにされるかのような圧迫感に、幸斗が悲鳴を上げる。それを辛そうに聞きながら、裕司はゆっくりとバイブレーターを引きぬいた。






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初出:2007.04.15.
改訂:2014.11.03.

Studio Blue Moon