Amnesty 20


最初なのだから優しくしようとか、無理はさせまいとか考えていた裕司だが、幸斗と一つになった途端、そんな理性ははじけ飛んでしまっていた。
「ああっ…んっ! もう…っ」
「いいぜ、幸斗。何度でもイかせてやるからな」
本質的に幸斗は快楽には貪欲らしい。
それでなくても感じやすい体のため、裕司にポイントを突かれれば抑えなどきかず、本能のままに乱れて何度も絶頂を迎えていた。
そうして絶頂を迎えるたびに裕司を受け入れているソコがきつく締め上げて裕司の精液を飲みこもうとするのだから、その期待に応えるように裕司も何度も突き上げた。
とはいえ、流石に限界はあるので、
「ぃっ…あ、ああっ…ん…ゆ…さん、もぅ…」
「何度でもいいぜ、何も出せなくなるまで俺を感じろ」
「ひっ…ぃいっ…ん…あ、ああっー!」
余りに感じすぎて涙声にまでなった幸斗は、最後には裕司を銜え込んだまま薄くなった精を僅かに吐き出したのち、ぐったりと意識を手放してしまった。
「幸…斗っ!」
それに僅かに遅れて最後に幸斗の中で精を放つと、裕司はゆっくりソレをと引き抜いた。
―― クチュ…
裕司のモノで栓になっていたのだが、それが抜かれたことで飲み込み切れなかった精液が溢れてシーツに染みを作る。
その量に苦笑しながら、裕司は幸斗を抱き上げてバスルームに連れて行き、中に残っている液を掻き出した。
(傷には…なってないみたいだな)
そのことには安心するが、今の幸斗の状態をみれば苦笑するしかないところだ。
白い肌に浮かぶ無数の朱の花びらの跡。
服で隠れる範囲に等と考える余裕もなく付けてしまったため、暫くは幸斗を外に出すことなど出来そうにない。
実際には熱など出さずに済みはしたが、久しぶりに慣れない筋肉を使った痛みで幸斗は丸二日ベッドから起き上がることも出来なくなるのだが ――
(…俺も所有欲が強かったんだなぁ。チッ、龍也のことを言えないぜ)
尤もそれが恥ずかしい等と言うわけではなく、寧ろ誇らしいくらいなのだから、我ながらげんきんなものだと思う。
それも幸斗が可愛くて愛おしいから。
そして、そんな幸斗を甲斐甲斐しく世話することも楽しくて。
体の隅々までキレイに汚れを落とし、バスルームから出ると裕司は幸斗を自分のバスローブで包んで、とりあえずリビングのソファーに寝かせた。
余程疲れたのか幸斗はその状態でも目を覚ますことはなく、その隙にシーツの取り換えを済ませてしまう。
そうして真新しくなったシーツの上に寝かせると、裕司はバスローブを脱がせて素肌を重ねた。
全てが自分よりも一回りは細くて小さな体をすっぽりと腕の中に閉じ込めると、幸斗は気怠そうに瞼を開いた。
「…ゅ…」
一瞬状況が掴めなかったようだが、自分の擦れた声と一糸纏わぬ姿に気づけば思い出すのは早かったようだ。
真新しいシーツとキレイに清められた体。
何よりも、裕司と素肌を重ねているというのが ―― 今更ながらに気恥ずかしい。
だが、
「ちょっと無理させたな。辛いところはないか?」
「…ぃぇ…」
「欲しいものがあったら言えよ? ああ、喉乾いてないか?」
抱かれた後にこんなに気遣いされるなど初めてで、幸斗は余りの嬉しさで無意識に瞳を潤ませている。
(どうしよう。幸せすぎて…怖い)
こんなに優しく抱かれたことも、こんなに穏やかな余韻に浸れることも初めてで。
幸斗は幸せすぎる不安からブルッと僅かに身体を震わせてしまった。
そんな幸斗に、
「どうした? まさか物足りなかったか?」
「 ―― っ///」
わざと揶揄するように囁けば、幸斗は途端に頬を真っ赤に染めていた。
優しくされることに慣れていない幸斗。
だが、これからは蕩けるほどに甘やかしてやりたいと思うから、
「何も怖がることはない。お前は俺が守る。俺だけのものだから」
そう何度も囁き続けるとまるでそれが子守唄のように心に沁み入って、いつしか小さな寝息を立てていた。
(愛してるよ、俺の幸斗…)
そんな幸斗の身体を世界のすべてから守るように抱きしめたまま、裕司もいつしか心地よい眠りについた。


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そんな、二人が静かに眠りについたころ ――


道路を隔てて向かいにある建物の影から、一人の男がマンションを見上げていた。
その視線は最上階の一室に向けられている。
そして、
「…こんなところにいたとはな、幸斗」
誰もその声を聞く者はいなかったが、そう呟いた男の声は晩夏の暑さの中でもゾッとするほどに冷たかった。






Fin.




19


初出:2009.07.19.
改訂:2014.11.08.

Dream Fantasy