Strategy 37


病院を出た悟は、ふと夜空を見上げていた。
天空には白鳥座のデネブと琴座のベガ、そして鷲座のアルタイルが夏の大三角形を形どり、燦然と輝いている。
北東の空のカシオペア座に北西の北斗七星。
そのあいだにある北極星。
南のさそり座へとつながる天の川もまるで降り注ぐように輝いている。
「凄い星空だな。久しぶりに見たよ。…っていうか、ずっと下ばかり見てたからな」
「これからは、いつでも見れますよ」
「そうだな」
そう応えて胸のポケットから煙草を取り出すと、飛島が自分のライターを差し出した。
それを、当然のよう咥えたままで火をつけて、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
「しばらく、旅行でもしませんか?」
唐突にそんなことを言われ ―― しかし、このままここに残っていれば否応が無しにも組のいざこざに巻き込まれるのは目に見えている。
だからそれもいいかなと思い、
「敵前逃亡か? まぁ別に構わないが?」
苦笑交じりにそう応えると、
「実は、明日の航空券を押さえてあるんです」
「…お前、俺が行かないって言ったらどうするつもりだったんだ?」
「行かないなんて言わないでしょう?」
それでは答えにはなっていないのだが、それ以上の追求はする気も無かった。
事実、断る気は全く無かったから。
そのかわり、
「支度はお前がやっておけよ。俺は疲れてるんだから、今日は帰ったら速攻で寝るからな」
「もちろんです」
悟にはとことん甘い飛島である。
寧ろ悟自身の方が、あんまり甘やかされてばかりていると、と思わずにもいられない。
但し、そう思っていても、それを言葉に出すことは絶対にないが。
「あなたのお世話は私がします。これからもずっと…お傍を離れませんよ」
「…物好きだな」
「世界中の誰よりも、貴方だけが大事ですから。私にとっては」
そういって悟の手をとりその甲に口付ける。
それを恥かしいと思うよりも嬉しいと思う気持ちの方がはるかに大きいことを、悟はしっかりと認識していた。
すべてを失って自由になったが、飛島だけは変わらず傍にいてくれる。
それが ―― 泣きたくなるほど心地よい。
だから、
「フン、じゃあさっさと帰るぞ」
照れ隠しに歩き出した悟を、飛島は慌てることなく後を追っていった。






Fin.




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初出:2003.09.03.
改訂:2014.10.25.

Fairy Tail