ヤキモチ焼きの年下彼氏 01


あれから ―― 小柴組が崩壊してからかれこれ1年。

悟と飛島は、小柴組の崩壊に関わるいざこざに巻き込まれるのはゴメンと、小柴昭二が死んだ翌朝には日本を後にしていた。
向かった先は ―― スペインのバルセロナ。そこは悟が一度は訪れてみたいと常々思っていた土地で、それを知っていた飛島が選んだ場所であった。
設計の仕事に付く以上、誰もが一度は名を聞く天才、アントニオ・ガウディが活躍した地である。
滞在期間は3週間余り。
その間、悟は毎日のようにその巨匠の作品を見て歩き、特にサグラダ・ファミリア(聖家族贖罪聖堂)には通いつめたと言っても過言ではなった。
そしてスペインを満喫して帰国すると ―― そこに待っていたのは、『高階設計事務所』という建物だった。



「なんだよ、コレ?」
成田で一泊し、帰国した翌日になって仙台に帰郷した悟は、連れてこられた三階建て事務所の前に立つと思いっきり飛島を睨みつけた。
「何って…新しい事務所です。いかがです?」
「いかがですって…そもそもこの看板はなんだよ? 俺は聞いてないぞ」
極自然に掲げられたプレートには、どう見ても自分の苗字か書き込まれており、悟は念のために尋ねていた。
案の定、返される答えは ――
「貴方の事務所ですから、当然貴方の名前です。ですが、他に付けたい名前があるのでしたらそれでも構いませんが?」
「その前に! お前、こんな事務所、どうやって手に入れたんだ?」
「マンションを売りました。あとは少々蓄えもありましたので」
はっきり言って、飛島は悟絶対主義である。恐らく葵建設を手放すと決めたときから企んでいたのだろう。
このビルは一階が設計事務所で二階と三階がプライベートエリア ―― つまり自宅となっている。
ちなみに荷物の類は全て運び込まれており、今日から住めるのは勿論、仕事だってできそうなほどの準備万端に整っていた。
「言ったはずです。私が全て責任を取ると。貴方には一番好きな仕事だけをして欲しいんです」
「全く。お前ってヤツは…」
こんな恥ずかしいことを、思いっきりマジに言われては ―― 幾ら悟といえどもイヤだとはいえない。
全ては自分のためという飛島の気持ちははっきり言って嬉しいのは間違いないから。
しかし、そこは天邪鬼な悟である。
「好きな仕事、な…OK、判った。じゃ、社長はお前な。俺は金輪際、経営には手を出さない。設計だけしかしないからなっ!」
「勿論…了解しました」
言った悟としてはコレでどうだという気分であるが、実は悟ならそういうだろうということは飛島には読めていたらしい。
そして、その後、営業も経営もやり手である飛島が本領を発揮し、気が付いたときには悟の名は建築界では結構知れたものとなり、雑誌などでも取り上げられるほどになっていた。



そんなある日のこと ―― 悟は一人の青年と知り合うことになった。






02話

初出:2003.12.13.
改訂:2014.10.25.

Silverry moon light