あなたの1番欲しいもの 04


「悟さんっ!」
結局何も買わずに戻ってきた悟が、ノブに手を伸ばした瞬間、思いっきりドアが開かれた。
「うわっ! あ〜ビックリした。驚かすなよなっ!」
突然のことでさすがに焦った悟がそういうと、問答無用で腕を引っ張られ部屋の中へと連れ込まれる。
「どこに行ってたんです!? 心配したんですよ!」
「どこって…ちょっとその辺…」
「風邪引いてるって言うのに…やっぱり、こんなに身体が冷えてるじゃないですか! お願いですから無理しないで下さい」
「無理ってなぁ…」
と言い合っている間にも、コートを脱がされリビングに連れられ、気が付いたときにはしっかり温まった部屋で毛布に包まれた上に、ホットミルクのカップを持たされていたりする。
「…お前、過保護すぎじゃないか?」
「何言ってるんです。このくらいは当然です」
「ま、いいけどな」
珍しく反撃してこない悟に、今度は飛島の方が気に掛ける。
「それで、どこに行ってたんです?」
何となく視線がきついのは ―― 恐らくは黙って出かけたというのが気に入らないのだろう。
何せ独占欲の塊のような男だから、できることなら悟を部屋から出したくないし、誰にも見せたくないというのが飛島の本音である。
尤も、そんなことを言えばムキになって怒鳴られるのも判っているのだが。
しかし、
「ん〜ちょっと買い物でもと思ってな」
と、結構飛島には隠し事のできない悟である。
「買い物って…なにか入用ですか? 言ってくれれば私が買ってきますよ?」
「そういうわけには行かないだろ」
「何故です?」
「えっとそれは…」
正面から見据えられて ―― しかも問い詰める飛島の目はこれっぽっちも笑っていない。
(これは…下手に隠すと却ってややこしいか?)
そう思った悟は、あきらめたようにため息を一つ付くと、
「…明日、何の日か知ってるか?」
と聞いてみた。勿論答えは ――
「明日ですか? 仕事は休みですよ」
(…コレだよな。ったく…)
思ったとおりの展開に、悟もがっくりと肩を落す。
そして、
「お前の誕生日だろうが! お約束みたいに忘れるな、ボケ!」
と思いっきり怒鳴った。
どこか照れたような、頬を紅く染めながら。
そんな悟の姿に ―― 飛島が気が付かないはずもない。
「え? あ、では、もしかして…?」
プレゼントを買いに出かけた ―― ということは、聞かなくても判ること。
しかし、
「でもさ、俺、お前の欲しいものなんて思いつかなくて…結局何にも買えなかった。な、お前の欲しいものって何だよ?」
こうなればもう開き直りである。
「何でも言ってみろ? 俺に買えるものなら、この際何でも買ってやるぞ」
これはもう、初めて給料を貰ったアニキが、可愛い弟に何でも買ってやるぞと言っているようなノリである。
一人っ子の悟には、そんな経験はないはずなのだが ―― すっかり飛島をお子様扱いである。
そんな却って子供っぽい仕草の悟に、飛島は苦笑しながら答えた。
「私の一番欲しいもの…ですか?」
「うんうん、言ってみな?」
「それは…貴方以外にあるわけないじゃないですか」
「はぁ? 俺?」
そう言いながら飛島は、そっと悟の手からカップを取って抱きしめた。
そして耳元に囁くように、
「当然でしょう? 私には貴方さえいてくれればいいんです」
「…ば、馬鹿っ! 恥ずいコト言ってんじゃねぇよっ!」
「恥ずかしくなんかありませんよ。紛れもない本心ですから」
というなり、そのまま悟を抱き上げてベッドルームへ…
「お、おいっ、飛島っ!?」
「嬉しいですね。そんなに私のことを考えていてくれたんですね。それでは、しっかりプレゼントを頂かないといけませんよね」
「ちょっと待て、俺はやるなんて言ってないぞ!」
「そんな今更…あ、ケーキは明日買いに行きましょうね。とりあえず今夜はプレゼントを堪能ということで」
「誕生日は明日だろうが!」
「いいですよ、一晩くらい早くても。勿論、明日は明日で頂きますし♪」
―― くれぐれも、悟さんも甘やかしちゃダメですよ。
ついさっき、逸弥に言われた意味が今になって納得して ―― 勿論、手遅れなのは言うまでもない。



「悟さん、ケーキ買ってきましたが…起きられますか?」
翌日、昼過ぎにそう声をかけられた悟だが ――
「起きれるわけないだろうが! 散々好きにしやがって…」
寝返り一つうちのも億劫な悟に対して、妙にすっきりご機嫌な飛島であったことは言うまでもなかった。






Fin.




03話

初出:2003.12.27.
改訂:2014.10.25.

Silverry moon light