あなたの1番欲しいもの 03


結局、たかられるだけたかられたという気がしないでもないが、店の前で智樹と別れると、悟は仕方がなくウィンドーショッピングに向かうことにした。
とにかくぶらぶらと見て周って気に入ったのがあれば買えば良いと、気分は段々投げやりである。
(確かに…散々一緒にいてヤツの欲しいものが判らないって…問題か?)
どちらかというと、悟は思ったことはすぐに口にする性格である。
だから欲しいものや、いいなと思ったものは結構その場で口にする。
おかげで飛島としては常にリストが公示されているようなものであるが、逆に飛島がそんなことをいうことは全くと言ってない。
おかげでこうして苦労するわけで…。
「あ、あのジャケットいいな…って、俺のを見てんじゃねぇんだよっ」
と自分で自分に突っ込みを入れる悟である。
(ヤベ…マジで思いつかねぇな。ど〜しよ?)
と落ち込みかけたその時、
「おや、悟さんではないですか?」
「え? あ…」
「どうしたんです? 珍しいですね。お一人ですか?」
悟の目の前には、嫣然と微笑む逸弥の姿があった。



「誕生日のプレゼントですか。それは難問ですね」
近くのオープンカフェの一画に席を取って、悟は逸弥とコーヒーを飲むことにした。
会長秘書という多忙極まりない逸弥であるが、その会長が実は恋人で、しかも飛島の実の兄であったりする。
今日は年明けのパーティに着るスーツの受け取りに来たとかで、珍しくラフな格好の逸弥であるが、それでも一目を引いてやまない目立ち振りである。
(この人って…却ってスーツのほうが目立たないんじゃないか?)
実業界では究極のクールビューティと名高い美人秘書(勿論、男)であることは、悟の耳にも届いている。
そのことはこうしているだけでも十分納得のいくことで ―― 何となく視線を集めている気がするのは気のせいだけではないはず。
但しその視線は、逸弥だけに向けられているものではないということには気が付いていない悟である。
「私も毎年悩むところですね。ですから、最近は差しあげるのを止めました」
「え? そうなんですか?」
「ええ、だって、ますます調子に乗るんですから」
まるで吐き捨てるようにそういうと、逸弥は流れるような仕草でコーヒーカップに口をつけた。
「調子にって…え?」
何気にスゴイコトを言われた気がして聞き返した悟だが、どうやら何かあったらしい。
ツンと取り澄ましたような中に、怒りとちょっと恥じらいを浮かべながらブツブツと文句を言う逸弥は、悟と一緒にいるということはすっかり頭から離れているらしい。
「全く、ちょっと人が感謝の意を表してなんて思ってしおらしくすればすぐに付け上がるし。かといって構わないでいると…あんなものを持ちだしてくるし…」
クッとすっかり冷えたコーヒーを飲み干すと、流石に逸弥も今の状況を思い出した。
そして正面でびっくりしている悟に気付き、てれたように頬を赤らめて、
「まぁ、隆志さんならそんなことはないと思いますがね。会長は…ホント見境ないですから」
「…はぁ…」
「くれぐれも、悟さんも甘やかしちゃダメですよ。それでは私はまだ用事がありますので」
と行ってしまった。
残された悟は ――
「…甘やかしちゃって…甘やかしてるか? 俺…」






02話 / 04話

初出:2003.12.27.
改訂:2014.10.25.

Silverry moon light