あなただけを… 01


濡れた身体を丹念に拭ってバスローブで包むと、飛島はそっと悟の身体をリビングのソファーに下ろした。
「ん…」
触れていた人肌が離れた恋しさかわずかに悟が身動くが ―― それでも目を覚ますまではいかないようだ。
「ちょっと待っていてくださいね。今、ベッドの方を直してきますから」
だから、そっと低い声でそう耳元に囁いて一人寝室に向う。
向かった先の寝室では、付けっ放しのダウンライトに照らされたキングサイズのベッドが、つい先ほどまでそこで行われていたことの激しさを物語るように乱れていて、そうした張本人である飛島も思わず苦笑を洩らしていた。
(ちょっと、無理させすぎましたかね?)
しかもその後身体を清めると言って向ったバスルームでも散々悟の身体を貪って、挙句がブラックアウトにまで追い詰めてしまっている。
明日 ―― 正確には既に「今日」だが ―― の朝、また怒られるのは眼に見えているが、その声が掠れて儘ならないことは想像に容易いというものだった。
それよりも気になったのは、大事な悟に傷を負わせてないかということで。
乱れたシーツを新しいものに取り替えながら、そこに特に変わった染みもないことに安堵した。
ここの所、急ぎの仕事が立て込んでいて、こういう行為に及ばなかったのは事実。
やっと片付いてホッとすると、無性に悟の身体が恋しくなった。
勿論、欲しいのは身体だけではないのだが、そこは健全な男である。
そしてそれは悟も同様で。
気がついたときにはお互いが求めずにはいられなかった。
但し ―― 悟のほうはギリギリまでそんな気はないと強がっていたが。
そしてその代わりと言ってはなんだが、ギリギリまで我慢するから、その箍が外れたときの乱れようは絶品で。
常に冷静なはずの飛島でさえもが我を忘れて貪りつくさずにはいられなくなる。
だからこそ、歩けないという悟をバスルームまで抱いて連れて行ったのだし、そこで汚れを落すのも手伝った。
それが途中からまたもや違う目的になって ―― 結局気を失った悟とともにバスルームを出たときには、既に日付が変わって数時間がたっていた。
それほどまでに飛島にとっての悟は「唯一絶対」の存在である。
もしも出逢うことがなかったと思うと ―― 心が凍り付いてしまうほどに。
「そう…ですね。もしも出逢っていなかったら、今頃はどうしていたでしょうね?」
そう思うと、出逢わせてくれた全ての出来事を感謝したいと思わずにはいられなかった。



そう ―― 全ては7年前に遡って…






02話

初出:2004.05.24.
改訂:2014.10.25.

Dream Fantasy