あなただけを… 06


(そう云えば…あれが始めて悟さんに逢ったとき、でしたね)
あのあとは、甘えて縋りつく智樹を振りほどいて悟が由美子を連れ帰ってしまったが、その別れ際に、
『これからも、悟と仲良くしてね』
そう微笑んだ由美子の姿が忘れられなかった。
それは子供を思う母の姿そのもので、実の母には抱いてもらった覚えもない飛島には初めて実感した「母」であったから。
そしてそれは ―― 仕事が忙しくて余り構ってもらえなかった智樹も同様で。
悟や由美子が稲垣の家目当てに近づいたのではなく、寧ろ逆 ―― 智樹の方が由美子に母のイメージを抱いて近づいたと判ったから。
そして更に、そのことを知っていた剛志が、きっとこの冷めた弟もあの母子を見れば家族というものを実感するだろうと思ったから。
おかげで飛島一人が諮られたようだったが、唯一つの誤算は ――
飛島が惹かれたのが母としての由美子ではなく、悟のほうだったと言う事だった。
(あの頃の悟さんは…お母様を守るためなら何でもするといいながら、それでも他人を犠牲にすることなんてできなくて…)
当時の飛島でさえ、稲垣の家を巧く利用すれば、おそらく由美子を小柴の手から自由にすることはできるだろうと思っていた。
だが、そんな姑息な手を悟は決して良しとはせず、寧ろ逆にこれ以上関わるなと警告さえ何度も告げていた。
そんな潔さが ―― 痛々しくて。
由美子に言われただけではなく、本気で悟を守りたいと思ったのはあの時が始まりだったのかもしれない…。



腕の中で、その気丈なまでの瞳を閉じて眠る悟を見守りながらそんなことを思い出していたら、ふと悟が眼を開いた。
「ん…どうした…?」
真直ぐ前だけを見つめる翳りのない瞳で。ただ、どこかそれは甘えるように和らいでいたが。
「いえ、何でもないですよ。ちょっと昔を思い出していただけです」
「…またヘンなこととか考えてたんじゃないだろうな?」
「そんな…酷いですね。悟さんのことしか私にはありませんよ」
「それが怪しいって言うんだ…よ」
そんな憎まれ口を叩きながらも、悟は飛島の腕から逃れようとはしなくて、
「ま、いいや。俺は寝る…からな…お前も、程ほどに…」
「ええ、お休みなさい」
(ずっと、ずっと貴方だけを守りますから…)
そう、腕の中の悟に誓うと、飛島もまた静かに眼を閉じていった。






Fin.





05話


50,000Hitにゆうちんサマにリクしていただいたお話です。

悟と飛島の出会い編〜ということで頂いていたのですが、まずはその頃の状況などを。
実はこの話。一応プロットは切ってあったのですが、書くと…思い切り長編になりそうで。
なので今回は、ホントーに「出会い」のみです。

ゆうちんサマ、拙いものですがご笑納いただけますと幸いです。


初出:2004.05.31.
改訂:2014.10.25.

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