貴方の傍に… 後編


「うわぁ〜、凄く綺麗ですね」
小さな神社であるから、参道といってもちょっとした小道でしかないのは事実である。
普段は車も通れない細い道であるが、この日ばかりはその両脇には所狭しと出店が連なり、美味しそうな匂いや威勢のよい掛け声、それに楽しそうな笑い声に満ち足りていた。
「普段は寂れた通りなんだがな。この日ばかりは見違えるな」
大通りからは外れた奥にあるし、そもそもこの先にあるのは小さな神社だけである。
そのため普段は殆ど人の通りもなく、裏寂れた感がしないでもないところであるが、こうして提灯や電灯で飾られていると、普段の静けさは嘘のようだ。
ところどころにはかつての氏子が奉納したらしい石造りの灯篭に蝋燭が点されて、それが人工の電飾とはまた違った灯りで訪れるものを優しく包んでいる。
並ぶ店も賑やかで、江戸っ子独特のちょっと柄の悪そうな口調の的屋ばかりであるが、それでもどこか憎めないのは、変に気取らず気軽に声をかけてくるものばかりだからだろう。
まさに下町情緒というか ―― この場所だけが一昔前のよき時代にタイムスリップしたような、そんな感じで。
「よっ、そこのカッコいい兄ちゃん! 腕っ節も良さそうだねぇ、一つ遊んでいかないかい?」
そんな風に声をかけてきたのは、ハッピにサングラスといういかにも怪しい的屋の男。
その声に振り向いた尚樹は、一瞬不敵に唇の端を吊り上げると、これ見よがしに祐介の耳元で囁いた。
「祐介、あの中で欲しいものがあるか?」
そう言われると、祐介は真剣に的の景品に見入って ―― 。
流石にそこは今風にアレンジされているらしい。
かわいらしいぬいぐるみから、インスタントカメラや時計などといった実用品。
他にはテレビのアニメキャラクターのグッズやプラモデルといったところらしい。
そんなものを見比べていた祐介だが、
「え? 僕ですか? いえ、特に…あ、でも、あのぬいぐるみ、可愛いですね」
そういって祐介が指差したのは、とあるアニメキャラクターのぬいぐるみ。小学生くらいの子供には大人気というところらしい。
「あれと同じぬいぐるみをね、この前郁巳とUFOキャッチャーで狙ったんですけど、取れなかったんですよ」
そんな風に、本当に残念そうに呟けば、
「そうか。よし、じゃあ、あれを狙ってやる」
そう言って尚樹は浴衣の腕を軽く捲り上げた。



「先輩って、本当に凄いですね」
射的の持ち弾は5発。そ
の全てを的中させて店主を蒼くさせた尚樹だったが、結局、手に入れたのは祐介が欲しがっていたぬいぐるみだけだった。
「よかったのか、それだけで?」
「ええ、十分です。それに、今から大荷物になったら、このあと見て回るのが大変でしょ?」
そう言ってニッコリと微笑む祐介に、尚樹も満足したようで。
尤も、一番安心したのはテキヤの男のほうだったかもしれない。
「いやあ、兄ちゃん凄いね。やっぱり可愛い子を連れてると強いぜ」
それでも負け惜しみか、そんなことを言って揶揄うが、
「まぁな。こいつがいれば俺は無敵だからな」
勿論、尚樹のほうも負けてはいない。
そう言い返してこれ見よがしに祐介を抱き寄せれば、寧ろ真っ赤になって照れるのは祐介のほうだった。
「もう、先輩ってばっ!///」
「あはは…いや、これは1本とられたな」
流石にテキヤの男も呆れたのか、そう呟きながらもさっさと行ってしまえと目が訴えている。
だが、そんな様子も尚樹には全く意に介さないようだ。
というより、
「フン、祐介に色目を使おうとしても、無駄だと判ったか?」
そのテキヤの男が、サングラスの奥で祐介を必要以上に見ていたことを、どうやら尚樹だけが気がついていたようだ。
「え? 僕にって…?」
「いや、なんでもない。じゃあ、行こうか?」
「…? はいっ!」
そう言って、祐介は満面の笑みを尚樹にだけ見せていた。



そのあとは、綿菓子を買って金魚すくいを覗いてヨーヨー釣りをして。
小さな神社であるから、それだけ見て周れば全て網羅したと言ってもいいほどで。
やがて境内に入ると、表の騒々しさが嘘のように静まった本殿へと向った。
「神道って、お参りの仕方が決まってるんですよね?」
「ああ、二拝二拍手一拝だ。判るか?」
「えっと…二回お辞儀をして、二回手を叩いて、最後にもう一回お辞儀…ですね?」
そう確認すると、祐介はもう一回独り言のように諳んじて。
それも間違えずにいえると、ご縁がありますようにと財布から5円玉を取り出して賽銭箱に投げ入れた。
そして、
―― パン、パン。
二拝二拍手一拝すると手を合わせたまま目を閉じて一生懸命に願いを込めて。
そんな真剣な姿に、尚樹も同じように手を合わせた。



―― ずっと先輩の側にいられますように。
―― ずっと祐介を側で見守れるように。






Fin.





前編


111,111記念に李華サマよりリクエストいただきました〜♪
お題は尚樹×祐介で長編・短編どちらでも構わない、18禁なしのほのぼの〜と頂いておりましたが、
すっかり遅くなってしまいました。すみません〜っ!
この二人は2歳しか違わないんですが、尚樹ってば、もう保護欲丸出しですね。(苦笑)

おそらく、このお祭りには政樹と千秋も来ている筈なんですが、
馬に蹴られたくはないので、見かけても声をかけたりはしないだろうと。(笑)
祐介と一緒にいるときは人格の変わる尚樹っていうのも好きですね。

それでは、これからもお楽しみ頂けますと幸いです。
このたびはありがとうございました。


初出:2005.08.06.
改訂:2014.09.28.

CoolMoon