Smilingly epilogue


「俺はお前が好きだ。多分、初めてあったときから。お前は俺のことをどう思ってる?」
そう言って見つめると、直哉は潤んだ瞳で俺を見上げた。
「…僕も…好き」
精巧な人形のような美貌に、サッと朱が走ってキレイなピンク色に染まる。
端から見れば究極のクールビューティ。でも、その本性は無垢な天使のようで ――
「…好きだぜ、直哉」
少し熱っぽい唇を奪うと、華奢な身体がわずかに震えた。そんな仕草一つとっても愛しくて、俺は直哉の身体を抱きしめた。
「…あっ…」
一瞬驚いた直哉だが、躊躇いながらも俺の背に手を回し応えようとする。
可愛いよな、ホントに。
「無理しなくていいからな」
「…うん」
前髪を掻き揚げて、額に軽く口付けると、俺は再び直哉をベッドに寝かしつけた。知恵熱とか云ってたけど、確かにちょっと熱っぽい。
「俺が側にいてやるから、安心して寝てな。それとも、俺がいると却って寝付けないか?」
ちょっと冗談交じりにそんなことを言うと、それだけで直哉の頬が赤く染まる。こういうところは免疫がない分、思いっきり正直なんだな。
「だ、大丈夫だよ。でも…側にいてくれると嬉しいな」
「…OK。早く良くなれよ」
と瞼にバードキス。熱さえなければこのまま…って気もしないでもないが、直哉相手には無茶はしたくないって言うのも事実だ。
だから ―― 今日はこのまま眠るまでいてやろうと、ホントにそれだけを思っていたが。
―― ドタッ! バタンッ!!
物凄い音がして ―― 寝室のドアが乱暴に開けられた。
「ナオっ!」
飛び込んできたのは ―― 金髪碧眼の男である。
「ネツを出したって? ダイジョーブか?」
ベッドサイドにいる俺のことなんか、はなっから視界に入っていないのは見え見えである。
そいつはさも当然というように直哉の側に来ると、自分の額を直哉に重ねて熱を確かめた。
「うん、ちょっとアツイな。病因には行った? クスリは飲んでる?」
…って、ちょっと待て。何だこの馴れ馴れしさわっ! しかも、直哉の方まで無抵抗か?
余りのショックから何とか復帰して、思いっきりムシされてる俺が反撃に出ようとしたその時、
「…いい加減にしろ、ジーノ。程ほどにしないと、マジに叩きだすぞ」
ついさっきまで典雅で穏やかな表情だった隆幸さんが、氷のように冷たい微笑にそれ以上に冷め切った声で現れた。
途端に、金髪男は背筋を伸ばして立ち上がった。
「だって、タカ。可愛い弟がネツを出したんだよ。もう、お兄ちゃんとしては心配になるじゃないか」
「バカか、お前は。たいしたことはないと言っただろうが」
「でもでもでも! お兄ちゃん心配で…」
「ああ、判った。だがな、弟の恋路をじゃなするような最低な兄は真っ先に嫌われるぞ」
とだけ言い放つと、隆幸さんはくるりと踵を返し ――
「え? あ、そんなのヤダ。ちょっとタカ、待ってよ!」
慌てて金髪碧眼の美丈夫が隆幸さんを追いかけて部屋を出て行く。
「…なんだったんだ? 今の…」
残された俺が呆然とする中 ―― 直哉が申し訳なさそうに呟いた。
「ゴメン。今のが…僕の兄さん」
「何ぃ? だって今の…」
「腹違いなんだ。正確には異母兄弟で、兄さんは生粋のイタリア人。僕はこれでも一応、ハーフなんだよ。それで、兄さんと隆幸さんは、その…」
と言いよどんだ先は、うん、納得した。
いや、アレはどう見たってそういう仲だろう。じゃなかったら、俺と直哉のことだってこんなに早く認めてくれるとは思えないし。
しかも、
「それで、あのね、永森君、悪いんだけど…今夜泊めてくれる?」
ちょっと頬が赤いのは、絶対に熱のせいだけではないはずだ。でも、さっき告白したばかりでって ―― 期待しちまうぞ?
「そりゃあ…俺は構わないが…」
「兄さんが帰ってきたでしょ。お邪魔虫はしたくないんだ。ここは元々兄さんが隆幸さんに買ってあげたマンションだし」
買ってやっただと? いくら恋人とはいえ、右から左にって出せる金額のマンションじゃないと思うんだが?
まぁいいか、そのあたりはおいおい教えてもらうとして、俺は起き上がりかけた直哉に手をかした。
ふわりと甘い香りがして、少し熱っぽい身体が俺の腕の中に納まる。
「大丈夫か?」
殆ど体重を感じさせない直哉を、俺は俗にいう「お姫様抱っこ」で抱き上げると、挨拶もそこそこにマンションをあとにした。



直哉の兄、ジーノとその恋人の隆幸さんが俺のマンションに直哉を迎えに来たのは、それから3日後のことだった。






Fin.




08


初出:2003.11.15.
改訂:2014.09.20.

Fairy Tail