KOIは一目惚れから始まるモノ 1st. Act 01


車の窓から外を眺めれば、今日も晴天ではあるが北風が冷たそうだった。
そろそろ三月も中旬で暦の上でも春をとうに迎えてはいるものの、まだまだ季節は冬の名残を残している。
無理して春物のファッションに身を包んだ若い女の子達も、寒そうに固まって歩いたり、暖かそうな店へと足早に向かっているのが見えていた。
それを眺めながら、
「寒そうだなぁ〜」
ふとそう呟けば、運転席の男は
「そうだね。やっぱり家まで送ってあげようか?」
そう言いながら俺の膝に手を伸ばしてきた。
優しげな声は嫌いじゃないけど、伸ばした手に下心が見え見えだよ。
だから、その手をさりげなく払って、
「ううん、いいよ。ちょっと寄るところがあるからね」
「買い物かい? だったら、僕が御馳走してもいいよ?」
勿論ただではすまないことは判ってる。
まぁ、この男の取得といったらそういうことのセンスはいいんだけど、その後がしつこいからイヤなんだよね。
俺にかけてくれる金とその後のセックスを両天秤にかけて ―― 出てきた結論は潮時決定!というのが俺の答え。
だから、
「ホント? でも、今日はいいや。これから会いに行くの、親だから」
そう何でもないように言えば、流石に男の表情が変わった。
まぁそんなの気にする親じゃないんだけどね。やっぱり未成年相手の不純同性行為はヤバイでしょ。
それを感じてか、
「そういえば…カズは御両親と一緒に住んでないんだよね?」
「ん、そう。だから、チェックしにくるんだよ。ウチの親、結構心配性だからさ」
といえば、更に表情が硬くなった。
ちょっと考えれば、コレは嘘ってすぐ判りそうなものなのじゃない?
だって、心配性の親だったら、中学 ―― 来月には高校 ―― の息子を、一人暮らしなんかさせないでしょ。
まぁ後ろ暗いことがあるから、そこまで頭が回らないのかもね。
それが判ってて言う俺も ―― 性格悪いなぁ。
ま、とにかく、
「あ、そこの駅まででいいよ。あとは電車に乗ってくから」
といえば、男の方も一安心したみたい。流石に親と御対面は気まずいだろうからね。
「いいのかい? ここで…」
「うん、どうもありがと」
路肩によって車を停車させてくれたので、さっさとドアを開ければ北風がやっぱり冷たい。
でも、ニッコリと微笑んで礼を言えば、相手も気のいい顔をして笑っていた。
「どういたしまして。じゃあ、今度は…」
「またご縁があったらね」
お得意のアルカイック・スマイルでドアを閉めれば、まるで合図をしたように後ろの車がクラクションを鳴らした。
やだねぇ、一寸くらい待ってくれてもいいじゃない? まぁ俺としてはいいタイミングだけど。
車の男もまだ何か言いたそうだったけど、そのクラクションにせかされて渋々って感じで車をスタートさせた。
その後姿を見送りながら、俺はポケットから携帯を取り出す。
親ほどとはいかないけど、それなりに年上相手の付き合いは悪くはなかった。
金払いは良いしセンスも良い。仕事もそれなりの重役らしいからほどほどに忙しくて、おかげで束縛されないのは俺にとっては◎。
ただ、セックスがしつこくてね。
流石に道具やクスリは使わないけど、それこそ一晩中に近いんだもん。幾らピチピチの15歳とはいえ、一晩中啼かされてたら身が持たないよ。
ということで。
「しつこい男は嫌われるんだよ〜」
ニッコリと微笑みながら「バイバイ」とメールを打つと、俺はあの男のアドレスを削除した。






02


初出:2008.01.06.
改訂:2014.09.13.

Fairy Tail