KOIは一目惚れから始まるモノ 1st. Act 02


携帯をカバンの中に放りこむと、俺は財布を出して切符を買った。
普段なら、「草嶋和行 平成○年11月5日生まれ 15歳 男」って書かれた定期を持っているんだけど、今日は家に置いてきている。
それというのも以前つきあった男がタチの悪いやつで、別れた後にもストーカー紛いのことをされたことがあるんだよ。
だから、つき合う相手には本名や自宅を知られないようにするっていうのが、俺の用心の一つでもあるわけ。
まぁそんなことを考えてつき合ってるっていう段階で ―― 別にウリとか援交ってわけじゃないけど ―― 本気のレンアイでもないことは言うまでもないね。
だからこそ、アドレス削除で別れられるのは楽で良いけど。
「あ…っと、携帯の番号も変えないとな。いっそのこと、機種変しちゃおうか?」
そんなことを考えながら、ついでに近くの売店で雑誌も購入。
ここから本日の目的地である成田空港までは結構あるから、暇つぶしに電車の中で読もうかな、と思ったんだ。
そう、実は、さっきあの男に言ったのは、決して嘘じゃないんだ。
今日は本当に親に ―― 母さんに会いに行く約束があったんだから。
会う場所は、成田空港。
ワシントン発成田空港着のエアラインで帰国する母さんと成田で待ち合わせて、そのあと成田発ニューデリー行きのエアラインに乗る母さんを見送るのが、今日のスケジュール。
『これから、日本に行くからね。久々に一緒にご飯を食べようよ。カズ君に高校受験合格祝いのプレゼントも渡したいしね』
って、国際電話があったのが今日日付が変わってすぐだったんだよ。
俺の母親は世界的に有名なとある商社に勤めてるんだ。
それも、3年位前まではそこの日本支社の支部長だったんだけど、今は本社勤めだからマンハッタンのマンションに住んでいる。
女だてらに支部長とか本社に抜擢なんてホントにできる人らしいけど、俺からみれば元気で気さくな母親だ。ああ、勿論、俺似の美人なのは言うまでもないけどね。
ただ、何せそんな感じで忙しい人だから、仕事の合間を縫うにも秒単位になっている。
それこそ世界中を飛び回り、貴族や王族、超エリート上流階級を相手にしているらしい。
それで今回は商談のためにインドのマハラジャに会うことになったとかで、そのついでに日本に立ち寄ることにしたんだとか。
端から見れば親に放置されているように見えるかもしれないけど、決してそんなことはない。
じゃなかったら、わざわざ日本で飛行機乗り換えなんてしないよね。
因みに、俺に父親はいない。
何でも、父方の親戚は母親と付き合うことを酷く反対したそうで、俺を妊娠したと判ったときには別れさせられていたんだとか。
しかも、「今後一切の連絡はせず、あくまでも他人とする」なんていう誓約書まで書かされたって言うから…いつの時代だよ?って感じだよな。
まぁそこまでされたから、勿論相手には俺のことも連絡せずに一人で産んで、何が何でもって奮起して今の地位も獲得できたっていうから…女って本当に強いと思うよ。
まぁそれはいいとして、そんなことだから、俺は父親の顔は勿論名前も知らない。
小さかったころは流石に知りたいと思ったこともあったけど、今はどうでもいいというのが本音だ。
だから、俺が年上の男とばかり付き合うのだって、別にそれが楽で後腐れがないからって言う理由だけだよ。
別に生き別れた父親の代わりになんていうお涙頂戴モノじゃないから、そこのところはお間違えないように。
とまぁ、そんな感じで電車に乗り込むと、俺は空いてる席をみつけて雑誌を広げた。
丁度、この春発売予定の携帯特集が載っている
「へぇ、タイムリーだな。どれがいいかなー」
最近の携帯はあれこれと付加価値がついてる上にバリエーションが広いから、どれを選ぶか目移りする。
とはいえ、流石に最新機種は高そうだし ―― と思っていたら、
―― ♪〜
軽快な電子音が電車内に鳴り響き、近くにいた女の子が嬉しそうに携帯をかけていた。
あの感じは、きっとカレシからの電話だろうね。嬉しそうで楽しそうで、幸せ一杯の笑顔を浮かべていて、なんだかこっちまで暖かくなるような雰囲気だ。
「…俺も早く次の相手、見つけるかなー」
3月とはいえ、まだまだ外は寒い早春。暖めてくれる相手が恋しい季節だしねぇ?






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初出:2008.01.14.
改訂:2014.09.13.

Fairy Tail