KOIは一目惚れから始まるモノ 1st. Act 03


ちょっとした小旅行で成田空港に着くと、そこは人、人、人…でごった返していた。
カジュアルでもちょっと気取った感じの女性グループは、きっと女子大生かOLだろうね。
カラフルなスーツケースを引きずりながらも、旅行ガイドのチェックを怠らないみたい。
一方で、さっさとわき目も振らずにカウンターに行き、手馴れた感じで荷物を預けているのは、ビジネスで海外出張には馴れているサラリーマンってところかな。
荷物も最小限だし、勿論見送りなんかもいないところを見ると、随分とマイレージも貯まってるんだろうなあって気がするよ。
そして、
「それではー、二人の幸せを祈ってー!」
流石に恥ずかしそうな二人を取り囲んで万歳三唱なんかやってるのは、これから新婚旅行にいく二人を見送りに来た悪友って感じだね。
はっきり言って通行の邪魔って感じだけど、本人達は盛り上がっちゃってるから周りなんか見てないみたい。
まぁ俺も近づきたいとは思わないけどね。
まぁそんな他人の様子をなんとなしに視界の隅に置きながら、俺は電光掲示板のフライト情報を見に行った。
ここは時間にはかなり煩い日本国内ではあるけれど、流石に飛行機ってのは予定通りの離発着なんて珍しいものだ。
下手すりゃ1、2時間の遅れだってありうる一方で、到着が早まることもざらにある。
でも幸いなことに母さんが乗ってるはずの便は今のところほぼ予定通りで、あと30分ほどで到着らしい。
勿論、飛行機の到着が30分後でも、実際に母さんに会えるのはそれより更に時間がかかるはず。
それを、ぼけーっとゲートから出てくるのを待つのも趣味じゃないから、俺は展望台にでもあがってみることにした。
まさかどの飛行機かなんてことは区別はつかないし、今更飛行機を見てはしゃぐ年頃でもないけどね。
まぁ、暇つぶしにはなるかなーとか思って。
ところが、
「うわっ…やっぱ、寒っ」
展望台に出た途端、俺を出迎えたのは冷たい北風だった。
それこそ「展望台」っていうくらいだもんなぁ。
見晴らしがいいってことは、遮るものがないってことでしたよ。
おかげで、思いっきり北風が吹きまくってて、その寒いことと言ったら!
「…そりゃあ、人もいないわけだ」
前に母さんを見送りに来たときは、同じく見送りに着ていたらしい子連れのグループの煩さに辟易したから、それがないのはまだいいけど。
それにしたって、この寒さは勘弁して欲しいよ。
ということで、
「やっぱ、やめた。どっかあったかい所にしよ。こんな寒いのは冗談じゃないよ」
ゆっくりお茶するって言うには中途半端な時間だけど、一気に冷えた身体には暖かいココアでも飲みたいところだ。
そう思って、さっさと中に戻ろうとしたその時、
―― ドンっ!
「うわっ!」
いきなりクルリと踵を返して回れ右したせいで、後ろから来ていた人に思い切りぶつかってしまった。
しかもちょっと勢いが良かったものだから、そのまま尻餅をつきそうになり ―― 寸でのところで腕を引かれ、逆に抱きとめられるような格好になった。
「おっ…と。大丈夫か?」
(えっ…?)
そう囁く声が、ゾクリとするほどに心地よく耳に流れ込む。
うわっ、何、この人。すっげぇ好みの声してる。
それに、強すぎず弱すぎもしない抱き留め方も凄く落ち着くような安心感があって、しっくりと馴染むなんてものじゃないよ。
かすかに感じる薄めのコロンの香りもいい趣味してるって感じだし
それに、
「急に立ち止まったりしたら危ないぞ。気をつけろよ、坊主」
そう言って頭を撫でてくれた大きな手が離れてしまうのが、酷く勿体無い気さえするくらい。
いつもなら、子ども扱いするなって言ってやるところだというのに、そんな気は微塵も起きないどころか、もっと撫でて欲しいとさえ思えるくらいだ。
そして、
「あ…はい、すみませんでした」


そう応えてゆっくりと見上げた瞬間 ―― 俺はその人に恋をした。






to be continued.





02


初出:2008.01.16.
改訂:2014.09.13.

Fairy Tail