Declaration 07


「割りにしぶといな。単なる貴族の馬鹿息子って訳じゃないのか?」
すでに国王軍は壊滅に近く ―― だが、本陣だけは陣容が厚く、いまだ突破ができないでいた。
尤も、既に勝敗は決していると言ってもよい。
開始前は倍以上の数を誇っていた国王軍であったが、今はほぼ8割の兵力を失っているのだ。
もはや戦闘とさえ言えず、指揮官でもあるジョーノとしてはやや気分を害していた。
ここまで一方的なやられ方をすれば、普通は白旗を揚げて投降するものである。
そうすれば指揮官の命までは取る事はない。相手は一個師団の指揮官 ―― それも名の知れたとは到底いえない ―― にすぎないのだから。
しかし、そこは気位だけは高い貴族の子弟ゆえか恐らく投降するという発想すらないのだろう。
既に消耗戦に近いというのに今だ刃を構えることをやめないということは、こちらとしても引くわけにはいかない。
「ここで引いては、ヤツラの士気を高めることにもなりかねないしなぁ〜」
さてどうするか、とジョーノとしては面倒なことは全て副官任せである。
それが判っているから、フォンダも、
「じゃあ、このまま潰すか?」
「そうだな…このままズルズルとやってても仕方がないか。さっさと片付けて一度本陣に戻るか」
強敵と会って、それを撃破するから戦は楽しい。
基本的にジョーノの思考はそれに尽きる。
だからこそ戦う相手にもそれ相応の能力を期待してしまうのだが ―― 少なくともこの戦いにおいてはそれは期待できそうになかった。
「しょーがねぇな。一気にカタをつけるか」
本来であれば、真っ先に先陣を切るジョーノがいままで後方で指揮に徹していたのは、いわば自ら育てた軍容の成果を確認するため。
だが、その確認も最早無用と言ってもいい。
となれば ―― 次の行動は火を見るより明らかである。
「出でよ! レッドアイズ・ブラックドラゴン!」
その瞬間、漆黒の姿が宙を舞い、大地を揺るがした。
「いけ、レッドアイズ! 黒炎弾 ―― !!」
その強大な力の差に、国王軍の本陣が一画を崩した。
「まだまだ行くぜ。レッドアイズ、全ての敵をなぎ払え! 黒炎弾 ―― !」
第二弾が更に打ち込まれ、国王軍の崩れた本陣では指揮官らしい派手な甲冑の人物が姿を現した。無論、それを捉えたジョーノに躊躇いはない。
(よし! 行けるぜ!)
そして更に次を打ち込もうとした瞬間 ――
「滅びのバーストストリーム!!」
白い閃光とともに、ジョーノの肩口を灼熱が貫いた。



王宮に潜ませていたバクラからの報告を受け、急遽ヘンリーが戦場に着いたとき、既に戦況は一変していた。
背後に総崩れ寸前の国王軍を控え ―― 気高く佇むのは、
「クリス…」
チラリと視線を動かしたクリスは、しかし全く表情を変えることなくヘンリーを睨みつけていた。
「今回は…この馬鹿どもを引き取りに来たまでだ。尤も、ここで決着をつけるというならそれでも構わんが…どうする?」
―― グゥルルル…
クリスに寄り添うように姿を見せているのは、紛れもなく『青眼の白龍』。
ドラゴン族でも、光属性最強の聖獣の高貴さは他の追従を許さず、当然のように主に従う姿は、まるで天界からの裁きに招かれた戦神である。
「く…悪ぃな、ユギ。俺に構わずやってくれ」
対するヘンリー側は ―― たった一度の攻撃で、ジョーノは自分のしもべであるレッドアイズ・ブラックドラゴンを撃破され、しかも肩にケガまで負わされている。
無論ここは引き際でもあるのだが ――
(あれが…幻の神、『オシリスの天空竜』…)
顔色一つ変えずに対峙する姿は、流石クリスである。
だが、他の者 ―― 国王軍だけでなく、チューダー側でさえ ―― 息を呑んで見るしかないのは、ヘンリーが侍らした幻の神、『オシリスの天空竜』。
戦って負けるとは思わないが、無傷でいるというのも恐らく不可。
それは一流のデュエリストであるから判る本能的なもので、一触即発の緊張感は、むしろクリスには心地よい。
だが、
「フッ…俺も今回は戦う気はないゼ。ジョーノ君をこのままにはしておけないしな」
「ほう…だが、このままおめおめと俺が貴様を逃がすと思うか?」
「まぁお前をこの場で浚って行きたいのは山々だけど…」
ニヤリと唇を少し上げるようにして笑う様は、まるで戦場に立っているとは思えない。むしろそれは ――
「ふざけたことを…まぁ良い。次は確実に殺してやる。いいな、俺以外のヤツに殺されるなよ」
「心配するな。いつでも迎え撃ってやるゼ」
とウインクまで向けて ―― 怪我をしているジョーノまで、呆れてため息をつく。
(おいおい、ユギ〜、ここで口説くなよ…)



やがて、一瞬の隙も見せず整然と軍を引かせたクリスを見送りつつ、自らも軍を引かせたヘンリーは、
「『俺以外のヤツに殺されるなよ』って…サイコーの愛の言葉だよな、そう思わないか、ジョーノ君♪」
「…絶対に違うって…」
「やっぱオレって愛されてるよなぁ〜。次に逢ったら絶対に浚ってやるぜ☆」
まるで他人の言葉を聴いていないヘンリーに、今後の戦況が不安になるジョーノであった。






to be continued.





Declaration 06


初出:2003.12.10.
改訂:2014.08.30.

Silverry moon light