Pledge 10


フワリとした浮遊感と共に、クリスは暖かい光を感じて眼を開いた。
酷く懐かしく、何のためらいもなくその身を任せられる安心感。
それは ――
「キュゥ…」
心配気に見つめる己と同じ蒼穹の瞳。その瞳が3対あることに気付き、クリスはそっと手を伸ばした。
身体は指一本動かしたくないほどに重いが、背中の灼熱も痛覚も既に消え去っている。
血に染まってたはずのドレスも、何故か元の染み1つ見当たらないものに戻っていた。
それがこのしもべたちの力の成せる技と、心で理解する。
「無茶をするな、イブリース。まだ…お前の傷も癒えていないだろう?」
そう言って一番心配そうに見下ろす僕に手を差し伸べれば、
「キュゥキュゥ…」
最愛のしもべは頬を摺り寄せるように、クリスに触れてきた。
それが、自らのことよりもクリスのことの方が心配でたまらないと言いたげに見えたから、
「そうだな、我ながら馬鹿な真似をしたものだ。心配をかけてすまなかった」
知っているものが見れば、驚愕で眼を見張りそうなほどの素直さでクリスはそう言いながら、新たに現れた2対のしもべに向き直る。
「アズラエル、ジブリール…逢いたかったぞ」
「キュ…キュゥルル…」
召還術も無しで何故実体化できるのかなど、今は関係のないこと。
ただ、探し続けていたしもべたちに再び逢えたということだけが嬉しいと思う。
そして、
「アイツは…無事か?」
「キュ…グゥルル…」
クリスのその問いに、ほんの一瞬だけ間をおきながらも、青眼達が答える。
昔から変わらない、あの男にだけは懐かないどころか妙に張り合うような態度に、自然とクリスの表情が和らいだ。
「そうか、それならばいい」
「キュウ…」
「アレはいい王になるだろう。元々、そのはずだったのだからな」
おそらくはあの時の自分以上に、と。
譲られた玉座をただ見守るしかなかったあの砂漠の国とは違って。
ただ一つ惜しむべくは ―― それを己が見ることはないだろうということ。
今は痛みも血臭もないが、受けた傷が致命傷であったことは間違いないという自覚は確かであり、それは青眼たちにも判っているようだった。
だから、
「カードに戻れ、ブルーアイズ」
「キュゥキュゥ…」
とんでもないと言いたげに擦り寄ってくる三体のしもべに、クリスは苦笑を浮かべるしかない。
そういえば ―― はるか昔にもこんな光景があったような気がする。
あの時も、いつもは素直に言うことを聞くしもべたちがどうしても嫌がって ――
それを無理に戻したあと、すべての記憶をあの石版に封印したことを覚えているのだろう。
だが、
「心配するな、俺は必ずお前達を探し出す。俺の半身はお前達だからな」
そして必ずあの男も、再び我が前に現れると確信して、
(俺が欲しければ、今度は貴様が追いかけて来い。俺のいる場所まで ―― )
そう不敵な笑みを浮かべると、クリスは静かに目を閉じた。






Fin.





Pledge 09


初出:2004.02.18.
改訂:2014.08.30.

Studio Blue Moon