白竜降臨 10


翌日 ――
いつもより少し早く目が覚めたモクバが海馬邸のダイニングに向かうと、
「おはよう、モクバ」
「兄サマっ!」
そこには、英字新聞に目を通しながらコーヒーを飲む海馬の姿があった。
その傍らには、見慣れたしもべの竜がミニチュアサイズで懐いており、モクバの姿に気が付くと、ちょっと申し訳なさそうに頭を下げた。
「元に戻ったんだね、兄サマ」
「ああ、心配をかけたな」
モクバと青眼にしか見せない和かな笑顔でそう謝ると、海馬はくしゃっとモクバの頭を撫でた。
そして、
「今日は、仕事には行くが早く終わらせる。帰って来たら、一緒に夕食をとろう」
そう告げると、モクバは一瞬、信じられないというように大きな目を見開いた。
しかし、すぐに
「ホント? 楽しみにしてるぜぃ!」
そう言って受かべる笑顔は久しぶりに見る年相応のもので、それを見守る海馬も、そしてそんな海馬を見守る青眼たちも優しく見守っていた。



授業の声を子守唄代わりにすっかり寝入っていた城之内だったが、
―― BRRRR…
突然、聞こえてきた爆音に、椅子から転げ落ちそうになりながらも目を覚ました。
「な、何だっ!」
一応お約束のようにそう叫んで窓から外を見れば ―― グランドの中央に砂塵が巻き上がり、その原因である物体が舞い降りていた。
大きく、「KC」とロゴの入ったヘリコプター。
そんなもので校庭に現れる人物といったら ―― この童実野町では一人しか存在しない。
「海馬!? アイツ、今日は姿が見えねぇと思ったら…」
巻き上がる砂でさえもひれ伏すような颯爽とした姿。
実際に、周囲はヘリのプロペラが巻き起こす風で砂を舞い上げていたが、海馬の周りだけはバリアでも張っているかのように綺麗なものだった。
それもそのはずで、
「あれは…ブルーアイズ?」
白いコートの裾をたなびかせる海馬の背後には、三体の青眼が守護するように寄り添っている。
おそらくは、青眼たちが無粋な砂塵から海馬を守っているのだろう。
相変わらずの白いコートには埃一つ付くこともなく、その蒼穹も曇るところは一つもない。
そして海馬の方もそれが当然というようで、何事かと授業も忘れて騒がしい生徒達には目もくれずに、校舎に向かうと、ふと城之内が身を乗り出している教室を見上げた。
「どうやら元に戻ったみたいね」
「ああ、そうだね。まぁ、良かったのか悪かったのかは判らないけど」
侍る青眼が三体ということは、この海馬は紛れもない「海馬瀬人」で。
ことの成り行きを ―― それなりに案じていた杏子と御伽が、確認するように呟く。
そこへ、
「海馬!」
ここ数日は何故か表に出ようとしなかった遊戯のもう一人の人格 ―― 闇遊戯が、それこそ窓から飛び降りそうな勢いで身を乗り出した。
更に、
「よぉ、シャチョ」
こちらも闇遊戯と同様に大人しくしていたはずの獏良のもう一つの人格が現れ、クククと邪悪な笑みを浮かべている。
「やっとホンモノのお出ましだな。小生意気なドラゴンも、元に戻ったみてぇだな」
「ああ、逢いたかったぜ、海馬」
元々
あまり仲が良くはなかったはずの二人だが、どうやら共通する邪魔者の存在にはタッグを組むこともあるらしい。
しかし、
「早速、今夜にも遊びに行ってやるぜ」
「何! バクラ、貴様に海馬は渡さないぜ!」
「フン、何が渡さないだ。オレ様は盗賊王だぜ? 狙った獲物を逃がすかよ」
「貴様〜!」
「「「キシャーっ!!!」」」
いつものように勝手な海馬の取り合いになったかと思えば、それを見計らったかのように光の怒涛が放たれ、ついでに数人のクラスメイトが巻き込まれていった。



「貴様らなど、誰が呼びなどするか! 俺には青眼だけで十分だわっ!」



最早授業どころではない教室の惨状には一切気に留めず、課題のプリントだけを提出して海馬は再びヘリと共に飛び去った。
その際、海馬が投げ捨てるように言い置いていった台詞に、杏子たち腐女子達が色々と詮索をしたということだが ―― それはまたの機会に。
ただ、
「嘘だろ、海馬…」
「ヤバいぜ。相手はカードだろ?」
思い当たるところがあったのか、闇遊戯とバクラは余りのショックで、暫く茫然自失としていたとのことだった。






to be continued.




09


初出:2007.02.12.
改訂:2014.09.20.

Heavens Garden