天国に一番近い島(33,333 Hits)


―― ザザーッ…
すっかり耳についてしまった潮騒だが、夜になると煩いほどに気にかかった。
結局初日はその殆どをベッドですごし ―― 折角のバカンスなどと言っても、不健康なこと極まりない。
(大体、裸で泳ぐなど…冗談でもないわ)
幾らプライベート・アイランドでここにいるのは自分と遊戯だけだといわれても、太陽の光が燦々と降り注ぐ下で一糸も纏わぬというのはやはり羞恥が先に立つ。
それに、
「ツラの皮まで厚いアレと一緒にされて構わんな」
透ける様な白皙と絶賛される己の肌には、流石にこの南国の陽は強すぎる。
仕方がなく一人で海水浴を楽しんだという遊戯は、たった一日で程よい小麦色に肌を染め替えていたが ―― 自分が同じ事をすれば、真っ赤に染め上げて今頃はこうしてベッドに横たわることもできなくなっていただろう。
それを考えれば、こうしてベッドでゆっくりするというのも悪くはない。
「まぁ、あの年中初発情期男が盛らなければ ―― だがな」
そう、忌々しいヒトデ頭のことをふと思い出せば ―― いつの間にか、隣にいたはずの姿が消えていることに気がついた。
「…遊戯?」



「…何をしている?」
昼間は熱砂となって裸足ではとてもゆっくりなど歩けなかった砂浜も、夜になればすっかり冷え切っていた。
その砂浜の、ぎりぎり波が届かない位置に、遊戯は一人で寝そべって空を見上げている。
「ん? ああ、起きたのか?」
「睡眠不足といわれても、あれだけ寝ておれば流石に飽きるわ」
「それもそうだな」
そう言って起き上がれば、サラサラと乾いた砂が背中から零れた。
そして当然のように隣に座るように促されると ―― 海馬はシーツをまとったまま、静かに腰を下ろした。
「星でも見ていたのか?」
「ああ、凄いな。本当に降るようにとは言ったものだぜ」
決して大都会とはいえない童実野町ではあるが、それでもやはりこの星空は比べようにならない。一切の人工の光を存在させないこの夜では空と海の境界線も定かではなく、全てが一体になったような不思議な安心さえ感じていた。
「結構、星明りって明るいんだな。もっと真っ暗で何も見えなくなるものかと思ってたぜ」
「普通の視力の人間なら、自然の夜空では6等級ぐらいの星を見ることができるというからな。流石に童実野町ではこうはいかないだろう」
「そうだな。それに、夜になると冷え込むな。昼間の暑さが嘘みたいだ」
「都会のスモッグのように、熱を溜め込むものがないからな。しかも見事な吹きさらしだ」
「それは言えてるな」
遊戯の言葉に、一々的確な答えを返す海馬である。それは、他愛のない遊戯の呟き一つも聞き逃してはいないと証明するようで、決して耳障りになどなることもない。
それに、
「もっとこっちに来いよ、海馬」
「俺は寒くなどない」
「オレが寒いんだって」
そう言って抱き寄せれば ―― それ以上は嫌がることもなく。
「たまにはいいよな、こんな風に二人きりっていうのも」
「…」
夜空と水平線が溶け合う辺りでは、決して童実野町では見ることのできない南十字星が輝いていた。


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