Endurance Game(4,444 Hits) 01st. corner


「そういえば…罰ゲームがかなり残ってたよな☆」
こっちは仕事中だと何度言っても煩く付きまとう遊戯(自称ファラオの方)を永遠に黙らせてやろうと銃を突きつけると、ニヤリと自信に満ちた笑みと共に、記憶の彼方に封印していた過去の産物を思い起こされた。
「くっ…それがどうしたっ!」
「いや、なんだったら、ここ辺りで一括清算しないかな〜と思って」
「な…に?」
溜まっている罰ゲームは確か…○回。ネチネチと言われ続けるよりは一括清算は海馬にとっても悪くない話だが ―― この極悪セクハラ大魔王がそう簡単に済ませるとは思えない。
だが ――
「悪い話じゃないだろ? そう…1日付き合ってくれるだけでいいぜ♪」
「一日だと?」
(まさか、一日中ベッドで○×△…俺を殺す気かっ!?)
そう思った海馬は、やはりここは一思いに殺してやると撃鉄を上げると、
「あ、違う違う! そんなことは(一寸だけしか)考えてないぜ。そうじゃなくて…」
一方の遊戯は慌てて学生服のポケットからなにやら取り出して ――
「相棒の家が城之内君のバイト先の新聞屋に変えたら、タダ券を貰ったんだ。折角、ペアで貰ったんだから、デートしようぜ☆」
そう言って見せてきたのは、童実野町の郊外に新しくできた「アミューズスクエア30」内にある水族館の無料入場券。
「水族館でデートなんて萌えるよな♪ ああ、相棒のお許しももう貰ってるし、ぜ〜ったい行こうぜ♪」
「フン、そんなものが見たいなら、タダ券などなくてもいつでも連れて行ってやるわ」
勿論、全館貸切でスミからスミまで気の済むまま堪能するがいい!
大体、この俺が新聞の勧誘の見返りで貰ったタダ券を使うなどと、笑止千万!
だが遊戯は、大きく溜息をつくと、
「だから、そーじゃなくて、俺はフツーの高校生のようなデートがしたいんだよ」
そう言って ―― 再びあの何か企むような表情でニヤリと笑った。
「よし、じゃあこうしようぜ。俺に1日付き合ってデートしてくれたら、今までの罰ゲームを全部清算してやる。お前は身体一つで付き合うだけでいい。但し、海馬コーポレーションの財力は封印だぜv」
「 ―― !?」
普通というのが妙に引っかかったが、エスコートは俺に任せろ!と息巻く遊戯は、海馬が返事をする前にモクバと仕事の調整していて ―― 気がついたときには明日の朝九時に迎えに来るということで話は決まってしまっていた。


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つい先月、童実野町の郊外にできたという「アミューズスクエア30」は、デパートとゲームセンターと文化施設と、更にホテルを一箇所に集めたという30階建ての総合商業施設で、勿論海馬コーポレーションも出資している。
元々何もなかったところに建設されたため、遊戯や海馬の住む町の中心部から向うには、童実野駅から出ているリムジンバスに乗ること約15分。勿論、いつもの海馬ならば専用車を出すか、もしくはヘリで一飛びなのだが、
「大丈夫か? 海馬」
「フン、この程度…」
本気で一般庶民のデートコースで行くつもりらしく、わざわざ海馬邸まで迎えにきたと思ったらそのまま駅から満員バスに乗せられて ―― 。
乗車率120%の箱詰め状態に、慣れない海馬は息苦しそうである。
尤も、他の乗客よりも頭一つ分背が高い海馬の方が、普段通学の満員バスで鍛えていると言う遊戯よりはるかに新鮮な空気は吸えそうな気もするが、それでもこの人熱は流石に堪えるらしく、綺麗な顔にかなり不快の色が出ている。
「無理するなよ。何だったら俺に捕まるか?」
「結構だ!」
と強気ではいるが、突然のデートで昨夜も遅くまで残業だったのは事実。やや顔色が悪い気もするが、絶対に弱みを見せるようなことはしない孤高の恋人だから、遊戯はそっと腰に手を回して身体を支えてやった。
「な ―― っ、遊戯 !?」
流石に満員バスの中では蹴り倒すことも怒鳴り散らすことも出来ず、白皙を薄紅に染めた海馬は遊戯の腕を振り払おうとするが、この混雑では身体を動かすことさえ困難である。
「心配するなって、支えてやるだけだゼ」
「あ、あたりまえだっ!」
この状況で何をされると思ってた?と聞きたい気もするが、真っ赤になって照れている(←遊戯主観では)恋人の反応が遊戯には嬉しい。
尤も ―― 端から見れば頭一つ分以上に小さい遊戯が、海馬に掴まっていると思われても仕方がないような気もするが…。



「…今度の株主総会で、リムジンの増発を提言してやる!」
本来なら15分でつくところが、何の因果か朝の通勤ラッシュと見事にタイアップして倍の30分となり、それでなくても満員御礼のバスに揺られることなど初体験に近い海馬は、肝心の「アミューズスクエア30」に着いたときには、流石にぐったりと疲労に襲われていた。
「あのくらいでヘコタレてちゃあ、朝のラッシュ地獄で生き残れないぜ」
とは言うものの、
(ま、確かに、お前には一生縁がないかもしれないけどな)
と思うのも事実。
何せ、蒼い眼の壮絶にキレイなこの恋人は、高校生でありながら世界でも名だたる海馬コーポレーションの若き社長。個人的にも幾つもの特許を持っている天才実業家で、ワーカーホリックなことはこの上ない。その分刻み・秒刻みのスケジュールゆえに普段は専用リムジンやヘリでの移動をメインとしているし、勿論海外出張の際には専用ジェット機も完全完備である。
そんな海馬だから、逆に普通の高校生が極あたりまえに経験するようなことには殆ど皆無で ―― 。
尤も、それを不服と思っていないどころか、仕事が恋人みたいなものだから。
本人はそれが当然と思っているようだが ―― もっともっと色んなコトを教えてやりたいと思うのは遊戯のささやか(?)な願望であったりして。
ついでに言うなら、一緒にいたいと言うのが一番の望みで ―― 。
「ちょっと休むか。飲み物でも買ってくるぜ」
着いたばかりで休憩とは先が思いやられるが、慣れない移動手段で疲れてしまったのは事実。ここで下手に臍を曲げられて帰られたりするわけにも行かないし(勿論、帰す気はないが)、そもそも時間はまだたっぷりある。
(一日付き合うって言う約束だもんな。あと20時間以上あることだし)
そう計算した遊戯は2・3階を吹き抜けにした噴水前のベンチに海馬を座らせると、一人その場を離れた。
「お姉さん、コーラとアイスティーを1つずつ頼むぜ☆」
売店のお姉さんに注文して ―― そこで無闇にウインクをすることはないといつも相棒に言われるところだが、海馬とのデートというこの状況が余りにも嬉しいためについ顔がにやけてしまう。これでこんなところを海馬に見られたりしたら、即機嫌が悪くなるのは目に見えていたが ―― しかし、流石に疲れていたのか、海馬は長い足を組んでテーブルに肘をつき、頬杖をして噴水の方を見ていたために遊戯のプレイボーイ振りには気がつかなかったようだった。
寧ろ気がついたのは ――
「見て見て、あそこ。すっごいイケメンがいるよ」
「きゃあ、ホント。モデルさんかしら?」
「ちょっとぉ、写真とっちゃおうよぉ」
「あ〜ん、こっち見てくれないかなぁ」
等など、女の子達の黄色い声が遊戯に届く。
(フフン、そーだろ。俺の海馬はチョー美人だからなv)
と鼻高々になるのは当然のこと。
しかし、
「ねぇ、声かけてみようか?」
「え〜、マジに行ってみる?」
「うんうん、行っちゃおうよぉ」
(うわっ、ヤバイ!)
はっきり言って、海馬がこの手の女の子たちを苦手としているのは一目瞭然のこと。何せよく知っているはずの杏子でさえも「生意気な小娘」と毛嫌いしている節があるのだから!
だから、女の子たちには悪いが ――
「あ…なんかヤバイ感じがしない?」
「うん…ヤメとこうか?」
「そうだね。なんかゾクゾクしてきちゃった。風邪かな?」
(悪いな、カノジョたち。でも、大事なデートを邪魔されるわけには行かないぜ!)
と、さりげなく千年パズルに思念を送り、闇の力を使って牽制しておく。
そして席に戻ろうとすると、
「え? 海馬…?」
噴水の方 ―― つまり、売店とは反対方向を見ていたはずの海馬が、いつのまにかこちらをじっと見ていて ―― しかも、何となく機嫌が悪そうだったりするのは気のせいではないらしい。
「お待たせ。どうした?」
務めて平静を装って、買ってきたアイスティーを差し出すと、それを冷たく見やった海馬は、
「…あの手の煩い小娘が好みなら、そっちに行ってもいいんだぞ?」
オカルト嫌いと言う割には、滅茶苦茶霊感が強いと言うか何と言うか。
おそらく闇の力を使って牽制しているところを見られていたらしい。
「じょーだんだろ? お前の方が断然イイに決まってるじゃないか」
「フン、それこそ冗談ではないわ。所詮、貴様も女の方がいいのだろうが」
こんな下らん茶番に突き合わせおって ―― と言う割には、ほんのかすかではあっても青い瞳がはかなく揺らいで。
その胸中に巣食う不安を垣間見たようで、遊戯は真剣な顔になった。
「…それってもしかして、妬いてくれてる ―― とか?」
そう言った瞬間、パッと白皙がピンクに染まって、
(マジ? うわっ…メチャ嬉しいかも?)
「ば、バカなことを言うなっ! 誰が貴様になど ―― 」
「あ〜もう、お前ってばホント可愛いなv。人目がなかったら押し倒したいくらいだゼ♪」
「倒すなっ!!!」
と言うか、いつも人目など気にもせんヤツが何を言う!とわめく海馬を構わず遊戯は抱きしめて ―― 当然、人目は思いっきり引き付けまくっていることは言うまでもない。

 02nd. corner

今回は…浅葱的にはホントーに珍しく闇海onlyです。
もしかして、初めてかもしれない?

2004.03.21.

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