Endurance Game(4,444 Hits) 02nd. corner


1階は広いエントランスと噴水と、その他には靴や鞄といった物を扱った店が入っていて、そんなところをぐるっと見て回ると、二人は2階へと向かった。
「水族館に行くのではなかったのか?」
エレベーターではなくエスカレーターで、しかもすぐ上の2階で降ろされた海馬は怪訝そうに尋ねたが、
「今日一日デートだゼ。水族館は最後でいいさ。それに、ウィンドーショッピングってのもいいだろ?」
「フン、買う気もないのにただ見て回るとは、時間の無駄以外の何者でもないな」
と言いながらも颯爽と歩く姿は、本当に惚れ惚れとしてしまう。
ちなみに2階と3階はファッションフロアで、主にカジュアル系のブティックやアクセサリーなどを扱った店が入っている。
ここでも当然のように人目を引く二人であるが、もはや他人からどう見られているかなど気にする二人でもない。
(というか、海馬に至っては視界にすら入っていない)
尚、この日の二人の服装は ――
既に定番となっている、やたらとベルトがついた白いロングコート風のデュエル服である海馬に、これでもかと言うほどに鎖をじゃらつかせたボンテージ系ファッションの遊戯である。
何でデートなのにデュエル服なの?とモクバには言われたが、迎えに来た遊戯の姿を見てそれ以上言う気がしなくなったと言うことは、今ごろ磯野辺りに愚痴っていることだろう。
はっきり言ってこの二人にファッションをとやかく言う資格はないように思えるが、
「そりゃあ、高いものは買えないけど…」
歩きながらチラリと遊戯の目に入ったのは ―― とあるファッションリングを並べている店先。
シルバーの台に小さなサファイアが一つついているだけの、本当にシンプルなリングではあったが、何故かそれが目に付いて。
思わず海馬の手を引き寄せると、問答無用で嵌めてみた。
「流石に愛だよな。俺の見立ても満更じゃないぜ。サイズもぴったりだしなv」
勿論、本来は女性用のものであるはずだが、細い指にはまるで誂えたようにジャストフィットしている。
「何の真似だっ!」
相変わらずの一瞬の神業で、気が付いた時には左の薬指に銀の指輪である。すぐさま外そうとするが、
「おっと、外すなよ。俺からのプレゼントだから、せめて今日一日は嵌めておいてくれ☆」
と言われると、海馬はチラリと己の指に嵌められたリングに目を向けた。
小さいながらも一応、サファイア。勿論、品質やらを言えば最低ラインのものであるのは間違いない。しかし、
「ちゃんと正式な婚約指輪はいずれ用意するからな。今はこれで我慢してくれな♪」
「な、何を言っているのだっ! このたわけっ!!」
わなわなと握り締めた右手が震えて、今にも殴りかかりそうではあるが、会計をしにいく遊戯の後姿を見ながら、海馬はそれ以上はリングを外そうとはしなかった。


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4階はファーストフードや喫茶店が軒を連ねるフロアで、ここに来て二人は少し早いがランチを取ることにした。
「…さっき飲み物を飲んだばかりだぞ?」
「っていうか、お前、今日はちゃんと朝も食ってきたか?」
「…」
「やっぱり…」
思った通りと当たっても、はっきり言ってこれは嬉しくない。
睡眠不足もさることながら、海馬の食生活ははっきり言って貧相などというものではない。下手すれば城之内よりも貧しいもので ―― それが食べる時間がないからだと言うのだから始末が悪い。
「少しでもいいから、ちゃんと3食は取れよな」
「貴様に言われる筋合いはない」
「…これ以上痩せたら、口移しで無理やり食わせるぞ」
という遊戯の口調こそはふざけていても眼は笑っていない。つまり、それは本気だということで ――
「フン、余計な世話だ」
と呟きながらも、海馬は遊戯が買ってきたハンバーガーセットに手を出した。
そもそも食事など、必要最低限のカロリーと栄養を摂取すれば良いだけのことだと言い張る海馬である。そのくせ、育ち盛りのモクバには好き嫌いはするなと言っているのだから ―― むしろ好き嫌い以上に食事の量と時間に問題のある海馬では言える立場ではないというのが事実である。
それでも兄サマ思いのモクバはなるべく一緒に食べようと努力しているようだが、一度仕事モードに入ってしまうとそうは簡単に行かない。
その点、屋敷も会社のセキュリティも黙らせて押し入ってくる遊戯の方が実行力は確かであるかもしれなかった。
実際、今日だってこうしてランチを取っているのだから。
「そりゃあ、お前の細腰もはっきり言って好みだけどな、モノには限度ってことがあるし」
「なっ…恥ずかしいことを言うなっ!」
「抱き上げたりするにも、今くらいの体重だと楽は楽だけど…あ〜んなコトやこ〜んなコトするには体力が必要だゼ☆」
「貴様〜///」
そもそも、身長差は一目瞭然だというのに、力だけは遥かに上回る遊戯が異常なのだっ!といってやりたいところではある。
だがそんなことを云えば藪から蛇とでも云うべきか、絶対にタダでは済まないことも判っていて ――
「大体、ちゃんと食えなどと言っておきながらファーストフードとは笑わせてくれるわ! これならばサプリメントの方が余程栄養学的には優れておるわ!」
といえば、
「う〜ん、そっか。じゃ、ディナーはちゃんとしたレストランに行こうな♪」
…と、やはり藪蛇なことこの上なかったりした。


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軽く食事を終わらせて5階に来ると、そこはDVDやCDのレンタル&セルショップと楽器店、他にも大きな本屋が入っていた。
「そういえば、お前、ピアノが弾けるんだってな」
最近流行の電子ピアノをものめずらしそうに眺めていた遊戯は、ふとモクバから聞いた話を思い出しそんなことを言い出した。
『兄サマは何でもできるからな。ピアノだってバイオリンだって得意だぜィ!』
流れるようなブラインドタッチでパソコンのキーボードを叩く姿には見慣れているが、あいにくピアノを弾く姿は見せてもらったことがない。
白いタキシードを着てピアノを優雅に奏でる姿は、想像するだけでもさぞかし綺麗なことだろう。
しかし、
「…ま、今日はいいか」
「遊戯…?」
絶対弾いて見せろというと思ったのに、あっさりと諦めたのが却って怪しいことこの上ない。
勿論遊戯としても海馬がピアノを弾いている姿を見てみたいのは山々であったが、ここでも注目を浴びているのは一目瞭然だから。
(何も他のギャラリーにまでサービスする必要はないしな。俺だけの取っておきだぜ♪)
それにピアノなら ―― 確か海馬邸の1階ホールにあったはず。
「お前の屋敷にもコレよりでっかいピアノがあったよな?」
「あ、ああ、ベーゼンドルファーのことか?」
「こんど俺だけのために弾いてくれよ」
愛のセレナーデだぜ♪と訳もわからずほざく遊戯に、
「…いいだろう。精々派手に葬送行進曲を弾いてやるわ」
と呟く海馬の声が聞こえたかどうかは定かではない。


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更にその上の6・7階はゲームセンターになっていて、当然のようにここにはKCの最新機種が設置されていた。
「…おい、あれって…」
「ククク…やはり気がついたか?」
順番待ちで長蛇の列ができている先には、ガラス張りの四角いボックスが待っていて ――
「カードバトル・シミュレーターボックスVer.2-M(ミディアム)シリーズだ」
ワハハ…と高笑いと共に説明されると、流石に遊戯もがっくりと肩を落とした。
(うっ…懐かしくて、涙が出そうだぜ…)
お互い散々な眼にあったはずで、少なくとも遊戯のほうはもう思い出したくもないというのが本音だというのに、海馬と来たら…。
DEATH-Tでの「死の体感」再現Box。もちろん、注意書きには『心臓の弱い方、妊娠中の方はご遠慮ください』とあるにはあるが ――
「お前なぁ…アレはやめたんじゃなかったのか?」
「フン、一度勝ったからとほざくな。尤も、あのときのものよりは一般向けにレベルダウンしている。貴様では物足りんかもしれんな」
なんならこの場で調整しなおして、DEATH-Tのリターンマッチをしても良いぞとまで言われたが、
「…遠慮しとくぜ」
まさかそれを見越してデュエル服で来た訳じゃないよな?と聞きたい気分だが、思いっきり肯定されそうな気もするから、聞くに聞けないというのが本音である。
一方の海馬のほうは、逃げるのか?とでも言いたげな不遜な眼で見てくるが ―― ここでその挑発に乗るほど、遊戯も愚かではないらしい。
(っていうか、また負けて半年廃人状態なんて、想像もしてないんだろうな、コイツは)
そもそもアレが未だにコレだけの人気を誇っているとは…まさかDEATH-T2を計画中とか言わないだろうな?と気が気でない遊戯である。
(それにしても…)
他のことなら恐ろしいほどのキレもので頭もいい海馬なのに、何故か勝負事になると学習能力は皆無のようだ。
大体、ここであんなゲームなんかやっていたら、後々のスケジュールに支障が出るというものでもあるし、
「それより、ちょうど二人でプレイできるみたいだ。あっちのシューティングゲームをやろうぜ」
そういってさっさとその場から連れ出し ―― 向かった先は家庭用ゲーム機でも有名なソフトのアーケード版シューティングゲーム。
5つに分かれたステージでそれぞれ示されたキーを入手し、最後にボスを倒してクリアするというサバイバル・シューティング。しかもこのゲームは二人でプレイするときはお互いをフォローすることも可能で、
「フン、まぁいいだろう。精々俺の邪魔だけはするなよ」
そういうと、海馬はさっさとキャラクターを選んでスタンバイする。
「Ready…Go!」
フリームーブなので普通のシューティングよりは遥かに機動力がある反面、360°に敵がいるため常に緊張を強いられる。その上、常に独立独歩、唯我独尊の海馬であるから、二人でプレイしていても当然援護など期待していないらしい
「おいっ、ちょっと無茶するなって」
「フン、煩いわ。この手の雑魚など、俺のクリティカルで一撃にしてやる!」
見事なまでのクリティカル連発(←それは実射で熟練してるから?)で、ポイントはうなぎのぼりである。
しかし、
「くっ…ええいっ、いいところでっ!」
殆どクリティカルで倒していたとはいえ、前に立ちはだかるゾンビを片っ端から倒していたのでは弾もなくなってしまうというもの。最後の強力武器はボス戦のステージにしかないから、なんとか敵を交わしつつ先に進む。
「援護するぜ、海馬」
「余計な真似を…」
といいつつも、武器がなくては戦いようもない。だからなんとかボス戦のステージにたどり着くと開始と同時に最強武器をゲットに走り、
「これで終りだ!」
ロケットランチャーを構えて盛大にぶっ放すと ―― WINNERの文字と共にリザルト画面が映し出され、ランキングが更新される。
「ワハハハ…この俺に適うものなどいるものかっ!」
「…っていうか、これがゲームじゃなかったら俺も死んでたな」

  01st. corner  03rd. corner

DEATH-T、再び〜は結構イケルと思うんですけどね。
下手なお化け屋敷よりも面白いんじゃないかと。
ちなみに、シューティングゲームのモデルは「BIOHAZARD Code:Veronica」です。
浅葱もクリアしてますが、社長には及びません(?)

2004.03.30.

Pearl Box