Fugitive 24


向野を帰した後、安原はモニターには映っていなかったとある部屋を訪れていた。
一応ノックをするが、おそらくそんなものは聞いてもいないだろう。
だから返事も待たずにドアを開けると、まず飛び込んできたのは悲鳴にも似た嬌声だった。
「ああっ! はぁっ…あっ…ああっ…!」
こんな光景は見慣れているはずの安原だが、部屋の中は一瞬顔を顰めたくなるほどにムッとする臭気に包まれていた。
置いてあるのは特大サイズのベッドが一つで、そのベッドの上では正に野獣ともいえそうなごつい体格の若い男が、貪るように一人の少女を犯していた。
「やだぁっ…あっ…ああっ! 壊れる…ぅ!」
見ればまだ幼い、中学生か下手をすれば小学生ではないかと思える少女である。
決して豊かとはいえない胸はまだ小さなふくらみでしかなく、猛獣のような男がまるで粘土細工のようにこねくり回すたびに、引き千切られるような痛みで悲鳴を上げている。
全裸の白い身体は汗と唾液でぬめぬめと光り、所々には男が噛みついたらしい歯形や噛み傷が散らばっており、愛くるしい顔には精液が白くこびりついていて目も開けられないほどだった。
そして、
「うぐっ…ぅっ…あっ…痛いっ…抜いてぇ…!」
男が突き上げるたびにぐちゅぐちゅと卑猥な水音を立てて少女の小さな身体を揺すられていたが、その下半身は既に真っ赤な鮮血が幾筋も流れていた。
既に後孔も柘榴のように真っ赤に裂けて血が滲んでいる。
膣の方も明らかに破瓜だけではない出血で酷い有様である。
しかし、
「安原か? ちょっと待っていろ。今終わらせる」
ドアを背に立つ安原に気が付いた男は残虐な笑みを浮かべてそう告げると、一際激しく少女の身体を揺さぶり、更に何度も突き上げて精を放った。
「きゃあーっ…ああっ…!」
目を見開いて何かに縋るように手を伸ばしたが、やがて少女の身体は僅かな痙攣を見せた後、ピクリとも動かなくなった。
それを更にもう一度突き上げると、ズルリと己の逸物を引きずり出した。
よくもそんなものがこの幼い少女の中に入っていたものだと思うほどの大きさである。
しかも散々使い込んでいるらしく何度も精を放ったはずなのに衰えは見せず、青黒く立ち上がったそれは醜猥で安原から見てもおぞましく思えた。
だが、そんなことは顔には見せず、
「お楽しみのところ、お邪魔してすみません」
そう頭を下げると、猛獣のような男は少女の血で染まった口を拭いながら、ニヤリと笑みを浮かべた。
「フン。こんなのでは楽しんだうちにも入らないな」
そう答えて足元に転がる少女の身体を蹴り上げると、白い身体はゴム毬のように転がって反対側の壁にぶつかった。
見れば、そこには他にも白い身体が転がっており、無造作に積み上げられているのにピクリとも動く気配がない。それは安原がこの男のために用意した「生贄」だったのだが、どうやらもう使いものにはならないようだ。
「おやおや、やはり保之さんには物足りなかったですか。これは申し訳ないことです」
そう愛想笑いさえ浮かべる安原だが、内心では忌々しく思っているのは言うまでもなかった。
保之と呼んだこの男は、安原にとっては兄貴分に当たる茂木の一人息子である。
だが兄貴分といっても恩義などは微塵もなく、安原にとっては向野以上に邪魔な存在でもあった。
安原が金光組でのし上がるには、茂木こそが真っ先に蹴落とす相手であったのだ。
だが、茂木は金光組でも随一を誇る武道派である上に組長の右腕とも言われた男であり、そう簡単に追い落とすことはできないと思われていた。
そんな茂木の、唯一の弱点ともいえるのがこの保之である。
なにせ保之は父親同様に腕力しかない男であるが、その残虐性にかけては組内でも問題視されていた。
それを今まで事なきにされていたのは、父親の権勢があったからに過ぎない。
親子揃った武道派であるが茂木はこの馬鹿息子が異様に可愛いらしく、どんな問題を起こしてもごり押しで不問にしてきたという前例があった。
そのため、流石に最近では他の幹部や組員からも不満が聞こえ始めており、金光組長も甘い態度でいることに無理が出始めていた。
その上に、今回の幸斗の捜索で片岡組との諍いである。
片岡組は規模としては金光組よりも若干小さいくらいであるが、何せあの蒼神会とつながりを持っているということはこの世界で知らないものはないほどだ。
しかも、組長の人格は金光組とは比べようがないほどに高く買われおり、西の難波組ともそれなりの付き合いまでもっていた。
ということは、この世界で敵に回すにはかなりまずいところがある。
今回は向野が巧く立ち会ったために事なきとなったが、次もこうなるとは思えなかった。
しかも、
「ああ、女もいいが…どうせならあの優男をヒイヒイ言わせたいぜ。今度逢ったら、絶対に痛い目にあわせてやる」
そう下卑な笑みで粋がる所など、まさに馬鹿だとしか思えないところだ。
保之のいう「あの男」とは、先日、痛い目に合わされた片岡組系列のホスト ―― 寿樹のことである。
その件では非は明らかに保之にあったのだが、向野が穏便に収めるように動いたために事なきを得ているはずである。
だが、おそらく次はあるまい。
そのことは向野も安原も肝に銘じているところであるのだが、肝心のこの男にはそんなことは微塵も判っていなかった。
元々、反省などということをするだけのアタマもないのだ。
父親の権勢を借るしかない能無しで、できることといえば自分よりも弱いものを嬲るだけ。
それをよく知っている安原であるから、
「そうですね。保之さんも、面子を潰されて黙ってもいられないでしょう。今度こそ二度と刃向かえないようにするべきですよ」
そう火に油を注ぐように吹き込む安原の内心では、向野と茂木の共倒れの図が既に出来上がっていたのだった。






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初出:2006.10.15.
改訂:2014.11.03.

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