Fugitive 49


じんわりとした痺れのようなものが這い上がってくる。
それを自覚した瞬間、
「あっ…なに?」
甘い疼きを晒された蕾の奥に感じ始めると、それは恐ろしい勢いで幸斗の理性を食い破っていった。
「やっ…やだぁっ…あっ…ああっ…」
じくじくとした疼きは容赦なく幸斗の全てを奪っていく。
それこそ、辛うじて残っていた羞恥心も ―― 裕司への思いも ―― だ。
だがそんな幸斗の様子を楽しそうに見ていた磯部は、
「流石、特注の催淫剤だね。もう感じてきたみたいだ」
そう心から感心し、楽しそうに呟いた。
しかも、ほんの一塗りもすれば十分効果を発揮する代物である。
それを磯部は惜しげもなく一瓶使い切ると、幸斗の後腔から溢れた分は前にも塗りたくっていった。
「あっ…ああっ…も…だめ…」
ぬめぬめと光る白い肌は、まるで隠花植物が虫を呼び寄せるかのように艶かしい。
その上、疼きに耐え切れない幸斗は自然と腰を振り、自分の身体や床に雄茎を押しつけるように蠢いて見せた。
そんな痴態が周りからどう見られているかなど、既に考えるだけの余裕もないのだろう。
それどころか、
「お…ねがっ…手を外してっ…」
余りのじれったさに自分で慰めようと手を伸ばすが、まだ両手の手錠の先は天上からの鎖に繋がれたままである。
多少は緩めてあるから床に倒れこむことはできるが、それ以上の自由は許されていなかった。
しかし、
「手を? それはダメだねぇ。外したら、幸斗君は逃げちゃうでしょう?」
「逃げないっ! 逃げたりしないから…お願いっ」
「どうかなぁ〜。前だって、逃げたりしないって、約束したと思うんだけど?」
そうやって耳元で囁けば、息がかかるだけでも幸斗の身体は跳ね上がっている。
恐らく、今、手を開放してやれば、幸斗はここに誰がいようと構わずに自慰をして見せるだろう。
そんな姿も確かに一興ではあるが ―― しかし、
「お願いっ…なんでもする…から…ぁ」
ポロポロと涙を流して懇願する幸斗の姿に、磯部は更に残酷な趣向を思いついた。
だから、
「何でも…ね。いいよ。じゃあ、外してあげよう」
「…え?」
望んで叶えられることなど、なかったはずである。
だから、泣きながら頼んだのは幸斗自身ではあったが、すぐには信じることができなかった。
しかし、
―― ジャラッ…
一瞬、疼きもなにもかも忘れかけた幸斗だが、実際に鎖が解かれるの他人事のように見ていると、すぐに自分のそこへ手を伸ばそうとした。
ところが、
「おっと。僕が良いと言うまでは触っちゃいけないよ。それに…」
そう言って取られた手には、まだ黒く光る手錠がかかっている。
それを頭の上で一纏めにすると、福島に命じて押さえつけさせた。
「まずはお仕置きだね」
不安気に見上げる幸斗の視線が心地よくて、磯部はニッコリと微笑むと、まるで鼻歌でも歌いだすかのように楽しそうに幸斗の雄茎を手に取った。
「やぁっ…!」
触れられなければもどかしいのに、ちょっと触られると今度は更なる刺激を求めてしまう。
そのこと自体は死にたくなるほどの浅ましさであったが、羞恥よりも解放を望むのは止められることではない。
そして、
「もうこんなに濡らして…本当に困った子だね。仕方がないから、栓をしておこうね」
そう言って何気にスーツのポケットからあるものを取り出すと、磯部は硬く立ち上がった幸斗の根元にそれを嵌めた。
―― カチッ
「な、何?」
あられもない所に金属のひんやりとした感触。しかも、
「やっ…やだっ! 外して、外してっ!」
ややきついくらいに締め付けられて、幸斗は自分で外そうと狂ったようにもがいた。
完全にではないが、漸く手が届くようになったのに、これでは自分で慰めることもできない。
しかも、
「ああ、ダメだよ。そんなに暴れちゃあ。怪我はしたくないでしょう?」
ククっと喉の奥で笑いながら磯部がそんな事を言うが、今の幸斗には聞こえていない。
だから、磯辺は野村に足を押さえるように命じると、リングを嵌めた幸斗の雄茎の先を指の腹で撫で始めた。
「あっ…やぁっ…ん…」
しっかりと根元が押さえられているために、蜜口から滲むのは透明な液のみである。
だが、
「ちゃんと根元を押さえているのに、まだこんなに蜜を出すなんて。本当にキミはいやらしい子だねぇ」
「やっ…やだっ…ちが…」
「そうか、リングだけじゃあ止められないんだね? じゃあ、ココも止めておく必要があるかな?」
「やっ…なに…あっ…ああっ!」
カリっと爪でなぞれば押さえつけられた幸斗が背を弓なりにして仰け反っている。
それを更に福島と野村にしっかりと押さえつけさせて、
「さぁ、ちゃんと栓をしておくんだよ。僕が良いというまでは…外したらダメだだからね」
そう言って細い鎖のついた棒を、幸斗の蜜を流す口に突き入れた。






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初出:2007.02.18.
改訂:2014.11.03.

Studio Blue Moon