Amnesty 16


PTAリレーでは、裕司は3位でバトンを受け取ったが次に回す時にはトップという力走を見せたが、所属したチームとしては結果的に2位で終了した。
それでも参加賞を持って観客席に戻れば、
「裕司さん、凄かったです!」
キラキラと目を輝かせて待っていた幸斗に出迎えられて、満更でもなかった。
「そうか? ま、大したことないさ」
「麗香ちゃんと大騒ぎしちゃいましたよ。やっぱり自慢のパパなんですね」
「まぁな」
どうせなら『自慢の恋人』と言われたいところだとも思いつつ、裕司はふと思い浮いて幸斗に囁いた。
「参加賞は貰ったが、どうせなら幸斗からもご褒美が欲しいところだな」
「え?」
「帰ったら、ひとつ頼みたいことがあるんだが…いいか?」
「あ…はい…」
わざと耳に息をかけるように囁けば、幸斗は頬を真っ赤に染めながらもコクンと頷いた。
焦る必要はないかもしれないが、いつまでも囲うだけでは先には進めないということは実証済みだ。
特に幸斗は自分から行動するということには臆病なところもある。
それならば、
(そうだな。俺が押し切ったからっていうのも、言い訳の一つくらいにはなるだろう)
幸斗自身も色々と考えてはいるようだが、もしも失敗したらという思いの方が強すぎて、最初の一歩が踏み出せないのは目に見えていた。
それを焦ることはないと見守ってきた裕司だが ―― もしかしたら、手を引いてやることも必要なのかもしれないと。



そうして午後のプログラムも滞りなく進められ、3時過ぎには閉会式となっていた。
その頃になれば、流石に父兄席の方でも応援疲れの気配が漂ってきている。
特に、
「どうやら柊平さんは限界のようですね」
大前がそんなことを云う以前に、柊平は転寝を始めていた。
麗香の応援をするときにはテンションを無理やりにもあげていた柊平だが、どうやらそれも限界だったようだ。
今ならまだ辛うじて意識もありそうだが、このまま放っておけば寝入ってしまうことは間違いない。
「しょうがないな。柊平を送ってやれ、大前。こっちはいいから」
「判りました。ここの片づけは若いのを手配してありますから」
「ああ、判った」
どうやら大前は最初からそのつもりだったらしい。
組の若い衆だがパッと見は一般人と分からないような者が2、3人やってくると、裕司に軽く会釈をしてさっさと片付けを始めていた。
その一方で、
「れーかは帰ったら、おばあちゃまとおじいちゃまにビデオを見せてあげなきゃいけないからね。ユキくんたちも、れーかのおうちに来る?」
「え? えっと…」
そんな風に麗香に誘われた幸斗は、流石に即答できず困ったように裕司に視線を向けた。
幾ら外に出られるようになったとはいえ、ヤクザの本家で裕司の実家である。
いきなりそれはきついだろう。
そのため、
「いや、流石に疲れたからな。また今度な」
そう言って交わしてやれば、そこは麗香のことである。
「じゃあ今度ユキくんもビデオを見に来てね。あ、そうだ。来月にはれーかのピアノの発表会もあるから、それには来てくれる?」
ただでは引かないどころか何気に次の予定まで入れてくるのは、小学生ながら大したものだ。
「ああ、そうだな。考えておく」
「絶対よ?」
「…成るべく、な」
「ホントかな? ま、いいや、それより、パパ」
裕司を呼び止めてしゃがませると、麗香は裕司の耳に囁いた。
「あんまりユキくんをいじめちゃダメよ」
どうやら本気で麗香は幸斗が気に入ったらしい。身内に味方は頼もしいところだが、
「勿論」
当然というように答えた裕司に対して、麗香は半信半疑というような表情を裕司には向けていた。
こういうところに信用がないのは、今更ながら仕方のないところだ。
それでも、
「じゃあね、ユキくん。またね!」
元気に手を振って教室に戻って行った。
それを裕司と幸斗も手を振って見送ると、
「じゃあ、俺たちも帰ろうか?」
「はい…」






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初出:2009.07.12.
改訂:2014.11.08.

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