Strategy 04


「あ…んんっ…」
「もうこんなになって…一回、先にイッておいた方がいいですね」
「やだ…こんな…」
まだ外は陽が高い。小春日和の日差しがカーテンの開け放たれた窓から差し込んでいる。
壁に押し付けられた悟はそんな明るさを嫌がるが、既に立っているだけで精一杯になっている。
一方の飛島のほうは流石に上着を脱いでネクタイは緩めたものの、シャツもスラックスもきっちりと着込んでいた。
「まだ仕事があるので、服を汚すわけにはいきませんから…」
「あ…やぁっ…!」
飛島がその場に膝をつき、悟のモノを口に含む。
生暖かいその感触に耐え切れず、悟は飛島を引き剥がそうと頭に手をかけるが、全く力が入らない。
むしろ飛島の頭を自分の股間に押し付けているようである。
さらにピチャピチャと卑猥な音を立て吸い上げられると、あっけなく悟は飛島の口で果ててしまった。
「おっと…大丈夫ですか?」
「…な、わけないだ…ろ…」
一気に膝が砕け、床に倒れそうになったところを飛島に抱きとめられる。
息があがって腰まで震えが来ていても、強気な瞳は健在であった。
(そんな風に強気にみせるから、私の歯止めが利かなくなるというのに…)
悟を抱き上げてベッドに降ろすと、飛島は脱ぎ散らかした服をハンガーにかけた。
この状況下であっても、そういうまめなところが飛島らしくて、悟としてはついからかいたくなってしまう。
「…カーテンも閉めろよ」
「明るいほうが貴方が良く見えるのですが?」
「俺はヤダ。閉めなきゃしない」
「はいはい、判りましたよ」
名残惜しそうにカーテンを閉め、うつぶせに横たえた悟の背筋に、すっと指を這わせる。そして背中から抱きしめ、耳元にそっと囁いた。
「ちゃんと仰せのままにしましたよ。それではご褒美を頂いてもよろしいですか?」
「だめ」
「だめって…素直じゃありませんね。また泣かされたいんですか?」
「だめったらダメ! このあと仕事があるだろ!」
「…仕方がないですね」
すっと悟の身体から飛島が離れる。珍しくあっさり諦めたので、かえって悟の方が拍子抜けしてしまい、身体を起こした。
「おい、飛島…?」
悟が見ている中で、飛島はハンガーにかけたスーツのポケットから携帯を取り出してどこかにかけていた。
そして、
「飛島です。先ほど本社を出ました。これから一件打ち合わせがありますが今日はその件が終わり次第、直帰させていただきます。勿論、社長もです。はい…そうですね、何かありましたら携帯かメールを入れてください。それでは」
そして携帯を切ると何も言えないでいる悟の側にやってきてニヤリとほくそえんだ。
「これで貴方の仕事はありません。笹川さんとの打ち合わせは私一人で充分ですから」
「何だよ、それ。俺は聞いてないぞ!」
「はいはい、あまり時間がありませんから、お叱りは後ほどゆっくり聞きますよ」
そう言うなり悟の唇を塞ぎ、飛島はゆっくりと指を這わせていった。



一仕事を終えてホテルに戻ると、既に薄暗くなった部屋で悟が穏やかな寝息を立てていた。
「戻りました、悟さん?」
「ん…」
初めから起こす気はないので耳元で囁いてみる。
どうやら飛島が出かけた後にシャワーでもしたらしく、少し髪が湿っていたが、そのあとベッドに戻ったまま本格的に眠りについてしまったらしい。
(ここのところ、お疲れでしたからね)
元々、悟の専門は建築設計で経営は専門外である。
それが若くして社長職に就いたのは、全て小柴組の差し金であった。
生かさず殺さず。不穏分子は目の届くところにおいておこうという怜子の策略である。
それがわかっていながら反抗できなかったのは、悟には最愛の母、由美子がいたからであった。
そして、今は ――
「ん…あ、仕事終わったのか?」
知らず知らずのうちに悟の髪を指に絡めていたらしい。その気配に気がついて、悟が目を覚ました。
「なんだ、電気ぐらいつければ良いのに」
「おや? 明かりをつけるのはイヤだと、いつもおっしゃるじゃないですか?」
「それは ―― !」
暗闇でもわかるほど、悟の頬が赤く染まる。そしてベッドから飛び起きると慌てたように服を着替えた。
「とにかく、メシだメシ! メシ食いにいくぞ!」
「私は貴方が食べたいのですが?」
まじめな顔で言われて、更に悟の頬が紅潮する。
「さっき散々食っただろうが! お前は満足かもしれないが、俺は腹が減ってるんだよ!」
「…仕方がないですね。ま、腹が減っては戦はできぬとも言いますし」
「なんだそりゃ? とにかく、お前の奢りな。そうだな…鍋がいいな」
「判りました。じゃあ、いきましょうか?」
さっさと歩き出す悟に付いて、苦笑を隠し切れない飛島も部屋を後にしていった。






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初出:2003.03.25.
改訂:2014.10.25.

Fairy Tail