Strategy 05


翌日は朝から会議で、しかも重役会議等と言ってもいつもなら単なる顔合わせと近況報告くらいであったが、流石に今回の件ではそうのんびりとしたことはやっていられなかった。
「とにかく、社長はどうお考えなんです? それをはっきりさせてもらわないと、我々だって動きようがありませんな」
代表取締役専務の柏木が、もっとももそうなことをいって口火を切る。
端から見れば正論ではある。
しかし実は今回の物件 ―― 仙台駅前の再開発に伴う高層マンションの建築計画 ―― に関しては柏木が責任者のはずである。
葵建設の重役というと、代表取締役である社長の悟に専務の柏木、そのほか一般取締役が3人、監査役が2人。更に執行役員が6人の13名の名が上げられる。
そして悟を除く全員が小柴組の ―― 怜子の息のかかった者達だった。
「既に計画は始まっています。今更、中止はできんでしょう?」
柏木にしてみれば、面子の問題もある。
小柴のフロントカンパニー系列の中で、葵建設は決して上位には位置していない。
寧ろ気分的には左遷に近い存在である。
そのためここに追いやられた者達は、何とかして本社に戻るために足掻こうとし、多少は強引な手法をとることも多々あった。
つまり今回のように計画が頓挫することなどざらである。
多少の無茶をしても平気と思うのは、やはり社長である悟が若いからということもあるだろう。
小柴の妾腹とはいえ、組とは直接関係を持たないということはいわば後ろ盾を持たないということであり、たんなるお飾りと見られているのは事実である。
だから失敗しても責任を悟に押し付けてしまえばいいと短絡的に考える輩がいることも事実で、実際に柏木もその一人であった。
しかし ――
「いや、これ以上傷口が広がらないうちにこの計画は中止させる。土地の買収にかかった資金は仕方がないが、幸い建築材のほうは使い回しができるからな」
「何をおっしゃるんです? 今更そんなことができるわけありませんよ! どれだけの広告費がかかっていると思ってるんです。これを回収しないで、ドブに捨てる気ですか!」
冗談ではない。今、計画を中止などされたら ――
しかし、悟の決心は固い。
「冷静になって状況を見てみろ。あの記事で住民の反対運動はますます加速するぞ。力づくで押さえ込めば、更にマスコミを敵に回すことになる。マスコミの力を甘く見ないことだな」
それは柏木にも判っていた。もはや中止しかないことも。
しかし、それでは面子もさることながら、既に着服している莫大な資金のごまかしができない。
柏木は小柴グループの古参である。
若い頃はかなりのやり手であったが、怜子が実権を握った頃から公私の区別がつかなくなった。
葵建設に回されたのも、数回の横領が暴露しかけたからである。
今まではかつての功績を考慮して甘く見られていたが、流石に今回はそれも無理であろうことは本人が一番良く判っていた。
だからこそこれでおしまいにして、この件を片付けたら退職金をせしめるつもりでいたのに ――
(こ、このままでは、退職金どころではない。解雇されてしまう!)
「とにかく、この件からうちは手を引く。どうしてもやりたいというなら、それなりの覚悟をするんだな」
悟がそう言い放って席を立つと、それで会議は終了となった。






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初出:2003.06.11.
改訂:2014.10.25.

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