Strategy 20


中間テストの期間中で昼前には学校を終えた智樹は、自分の自宅ではなく、真直ぐに隆志のマンションにやってきていた。
静かに玄関の鍵を開けて中に入ると、そのままそっと寝室のドアを叩く。
「悟さん、起きてる?」
返事は待たずに中に入ると、そこにはかなり顔色の良くなった悟が、静かに眠りについていた。
あれ以来 ―― すっかり体調を崩してしまった悟は、2、3日高熱にうなされており、やっと今朝になって落ち着きを取り戻しつつあった。
それまでは飛島も付きっ切りで面倒を見ていたが、
『俺のことはいい、お前にはやることがあるんだろ?』
今朝ようやく意識を取り戻した悟に言われて、後ろ髪を惹かれる思いで出社したのは言うまでも無い。
こうして寝顔を見ていると、流石に血のつながりは伊達ではないと思い知らされる。
長い睫毛に切れ長の瞳。少し小さめの唇など作りは母親である由美子にそっくりだった。
尤も、目を覚ましてしまえば気の強い瞳の印象が強すぎて、由美子のような儚げな印象は半減してしまうのだが ―― 。
「ん…あ、智樹か?」
じっと見ていたらその視線に気づいたのか、悟はゆっくりと瞼を開いた。
流石に熱にうなされた後のため、いつもよりはきつい印象は薄らいでいる。
「ごめん、起こした?」
「いや、構わない。お前、学校は?」
「テスト期間だから早いんだ。お腹空いたでしょ? 何か食べる?」
熱でうなされている間、かなり汗をかいたのでパジャマは既に飛島のものを着せられている。
悟にはやや大きめであるため、そのまま起き上がろうとすれば胸元が肌蹴て、少々目の毒ではある。
「それより喉が渇いたな。なんか冷たいもの頼めるか?」
「うん、いいよ。持ってきてあげる。ちょっと待っててね」
そう言ってキッチンに向かうと、それと同時に飛島が帰宅した。驚いた智樹が無意識に時計を見ると、時刻は正午を若干過ぎていた。
「あれ、兄貴、どうしたの? 仕事は?」
「それより悟さんは?」
「今さっき目が覚めて、喉が渇いたって」
「そうか、判った。あの人の食事を作ったら仕事に戻る」
「え? 食事くらい俺が…」
と言いかけて、すぐさま口を塞いだ。
悟のことに関しては、何を置いても第一にする兄である。当然仕事よりも悟の食事のほうが大事であることは間違いない。
しかも当然のように智樹の手からペットボトルとグラスを受け取ると、悟の待つ寝室のドアを叩いた。
「悟さん? 具合はいかがですか?」
「ああ、もう大丈夫…って、お前、何やってんだ? 仕事は?」
「仕事は待たせられますが、貴方の食事を待たせるわけには行きませんから」
流石にその後の会話はドアを閉められてしまったので智樹の耳には入らなかったが、
「…悟さん、偉いのに惚れられてるなぁ、ホントに」
つくづくそう思って、そんな二人を邪魔しちゃ悪いとばかりに、智樹は静かに書斎で大人しくしていようと決めていた。






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初出:2003.07.26.
改訂:2014.10.25.

Fairy Tail