Strategy 24


白いシーツをぎゅっと掴み、時折切なげな声を漏らす悟を、飛島は愛おし気に抱きしめていた。
既に何度か飛島を受け入れ、悟自身も快楽に身を委ねきっている。
ピンクに染まった白皙の肌にはしっとりと汗ばんでおり、飛島の指に吸い付くように艶めいていた。
「あぅ…も…やめろって…」
再び熱を帯び始めた飛島のモノを感じて、悟の腰が逃げる。しかし、そんなことが許されるはずもなく、
「素直じゃないですね、ココはまだ欲しいって誘ってますよ」
膝裏に腕を回され外気に晒された後腔はピクピクと淫らに緩んで、飲み込んだ飛島の残滓を溢れさせている。
それを掬いながら指をあてがえば、何の抵抗もなく三本がゆるりと咥え込まれていった。
「ああ…んっ、ヤぁっ…」
途端に背を仰け反らせ、悟があられもない嬌声を漏らす。
それを恥じて右手の甲を口に当て、噛み付くように上げられる声を止めようとする姿がいじらしく、飛島はもっと攻め立てたい気に襲われた。
だから、その両手を頭の上で押さえつけると、少し怯えたような瞳が飛島の姿を映していた。
「もっと声を聞かせてくださいね、悟さん」
「うぅっ…飛島…」
「だめですよ、悟さん。二人きりのときは名前を呼んでくださいって言ってるでしょう?」
咄嗟に頬が赤く染まり ―― それは白い項にまで広がっている。
屈辱と恥らいの境界線のような表情に飛島の独占欲が更に煽られる。
もちろんその間も飛島の指は、くちゅくちゅと音を立てて悟の後腔を犯し続けていた。
その甘い刺激に耐え切れず、悟の瞳からは一筋の涙が流れ落ちる。
「や…だ…隆志…」
何度も精を放ったにも関わらず、再び悟のモノも硬く天を仰いでいる。
しかし、後腔を指で犯されるだけの甘い刺激だけでは、イクことはできない。
どろどろに溶けるような快楽に溺れた精神には、取り繕うことも隠し立てをすることもできなかった。
ただ、身体が欲しがっている刺激を求め、そのためには自分の望みを素直に口にするだけである。
「たか…し…欲しい…来て」
いつもはきつく全てに挑むような瞳が、涙で潤んで切なく訴える。
恐らくはこちらが本来の悟の姿 ―― 幼子のように甘えて縋りつくと、飛島は他人には絶対に見せない優しい表情で悟を包み込んだ。
「…やっと上の口も素直になりましたね? じゃあ、ご褒美を上げますよ」
わざとゆっくりと指を引き抜くと、それだけで悟の身体がビクンと跳ねる。
ゆるく物足りない刺激であったはずなのに、その指でさえ逃すまいときつく締め上げる素振りまである。
「あぅ…んんっ…」
「いい子ですね、さぁ力を抜いて…」
ゆっくりと埋め込まれる楔に悟が歓喜の声を上げる。
背を反らせ、仰け反る項をきつく吸うと、縋りつくように悟の腕が飛島の背中に回された。
それを更に抱きしめて、飛島がゆっくりと、次第に激しくグラインドを繰り返し始めると、悟は快楽に身を委ねることしかできなかった。
「ああ…ん、隆志、たか…しぃっ!」
悟の性感帯をことさらに攻める飛島の動きに、悟の身体は翻弄されるがままである。
「あ…ん、いいっ…イクっ…!」
「悟…いいですよ、全部…全部私にください」
「ああ ―― ん!」
快楽の海に溺れそうになる身体を、飛島にきつく抱きしめられて、悟は静かに意識を飛ばして行っていた。



つい今しがたまで妖しく乱れていた白い身体が、今は飛島の腕の中で安らかな寝息を立てていた。
例の事件 ―― 小柴にクスリを盛られた一件以来、飛島が悟から離れることはなく、寝食もともに過ごすようになっていた。
荷物も必要最低限は飛島のマンションに運び込まれ、客室として空いていた部屋が悟の私物で埋まりつつある。
そこにはもちろん由美子の位牌もある。
「んっ…」
いつもはプライドが高く、弱みを見せまいとする悟であるが、眠っているときは素直に飛島にその身体を預けている。
まるで子供のようにすがり付いて、そのぬくもりの中で安心しきって ―― 。
その姿がいじらしくて、飛島は軽く悟の唇に触れてみた。
「あ…ん…たか…し…」
甘い声が自分の名前を囁くと、既に満足したはずの欲望が再び呼び覚まされるようであった。
(全く、罪な人ですね、貴方はという人は…)
流石にそれはヤバイと苦笑して悟を起こさないようにベッドから抜け出すと、飛島はバスルームへと向かった。
基本的に華奢で線の細い悟とは異なり、飛島は無駄な肉こそ付いていないが男としては立派な体躯を持っている。
筋肉隆々とまでは行かないものの適度に締まり、上背もあるから女性の目を引くことは事欠かない。
但し、その視線が優しく向けられるのは悟に対してのみである。
バスルームから出てきた飛島は、上着こそ着てはいなかったがスーツに身を包んでいた。
ぬれた髪を乾かして整え、きっちりとネクタイも締める。
この日は土曜日で、しかも時刻は午前5時。それにも関わらずその身支度はというと ――
ふと窓から見下ろしたマンション前の道路に、一台のベンツが停まった。
降りた運転手が後ろのドアを開けると2人の男性が姿を現している。そしてその運転手に、何かを告げてマンションの中に入ってくる。
しばらくして飛島は玄関に向かい、時間を見計らって静かにドアを開けた。
「ご足労をお掛けしてすみません、兄さん」
そこには飛島の実兄 ―― 稲垣剛志が立っていた。






23 / 25


初出:2003.08.02.
改訂:2014.10.25.

Fairy Tail