ヤキモチ焼きの年下彼氏 03


―― カラン、コロン…
ベルの音が響き渡り、新しい客の来訪を告げていたが、話に盛り上がっていた克己と悟には全く気付かれなかった。
スーツ姿でビシッと決めた二人の目の前には、この店の一番人気メニューであるスペシャルストロベリーサンデーが二つ並び、話の合間に艶っぽい唇の中へと姿を消して行っていた。
(全く、人騒がせな方ですね)
そんな2人の様子を眺めながら、飛島はカウンターでコーヒーを注文した。
ここのところ、仕事が忙しかったのは事実である。
先日、悟が設計した某企業の重役邸が雑誌に載り、それがかなりの好評を受けたため引き合いの話が立て続けに来ていた。
今日の会議もそのツテであり、一方で別件が入っていたために飛島はそちらへ出向いていた。
そして、打ち合わせが終わって外に出たところでこの雨に気が付いたのだ。
基本的には横着モノの悟である。当然、傘など持っていないはずだし、時間的には打ち合わせも終わっているはず。
そして今日は資料などを持って出たはずだから、自分はともかく資料を濡らすのは避けるはず。
だからすぐに迎えに来いと連絡が入るだろうと思っていたのだが ―― それが中々ないことを不審に思ってこちらからかけてみれば、「現在電話に出ることができません」とのメッセージ。
念のため打ち合わせ先にもかけてみれば、既に帰ったといわれ ―― 慌ててきてみればこの有様である。
当の2人は全く気にせずニコニコと微笑みながら話に盛り上がっているようであるが、そんな2人を見ている視線はかなり多い。
最近流行のイケメン風甘いマスクの悟に、方や天使の美貌の克己である。
しかも2人の座っている席は一番窓側で、道行く人々もそのツーショットにドラマの撮影かとカメラを探しかねないほどである。
おかげで店の前には長蛇の列ができており ―― それが男女ほぼ均等というのがなんともいえないが ―― 店は嬉しい悲鳴といったところのようだった。
とはいえ、飛島としては、余り嬉しくはない。
大事な悟が人目に晒されるというのは ―― 独占欲の塊のようなこの男にとって、耐え難いことと言っても過言ではなく、できることならこの人込みを蹴散らしてさっさと事務所に連れ帰りたいくらいであった。
しかし、
(まぁ、たまには息抜きもいいでしょうね。あんなに楽しそうにしているのも久しぶりですし)
屈託がなく微笑む悟の姿というのは、ある意味かなりレアである。
天邪鬼な悟は飛島の前では素直に甘えるということを潔しとはしないし(その割には我侭一杯は言ってくるが)、仕事相手では尚のことである。
それがあんな穏やかな表情でというのは ―― 亡くなった悟の母、由美子に向けていたものに近かった。
流石に、ちょっと ―― 妬ける気もしないではなかったが。



そして、実は同じようにその姿を見て苛々としている人物が、道路を挟んだ向こう側にもいたということを、当の2人は全く気が付いていなかった。






02話 / 04話

初出:2003.12.13.
改訂:2014.10.25.

Silverry moon light