ヤキモチ焼きの年下彼氏 04


大通りに面したその喫茶店は、晴れていればオープンカフェにもなってビジネス街のこの辺りではかなりの人気であるらしかったが、流石に雨の降りしきるこの天気ではそちらは休業状態となっていた。
ビジネス街では天気によって店の売り上げは著しく上下する。
それでなくても短い昼休みであるから、雨となれば大抵のサラリーマンたちは社外に出る事はなく、中で昼食を済ませることが多くなる。
だから、本来なら今日は店の売り上げも落ちるだろうと予想していた店主は、予想に反しての賑わいに驚きを隠せなかった。
尤も、その喜びは一組の客のおかげであることは間違いなくて ――
自然に窓側の席を薦めた店員に、特別ボーナスを支給しても良いかもと思うほどである。
どちらか一人でも、恐らく店の売り上げに貢献してくれるだろうことは間違いなしに思えたが、それが2人であるのだから。



しかし、次の瞬間、その甘い夢も無残に打ち砕かれることのなるのだが ―― 。



医者という職業柄か、克己は話し上手で聞き上手である。
他愛もない世間話であるがニコニコと楽しそうにされるとつい話しこんでしまい、悟は珍しく饒舌になっていた。
特に、仕事に対する話は盛り上がり、次から次へとこれからの豊富や期待が思い浮かんでは途切れることがない。
「凄いな、ホントに設計が好きなんだね、悟は。今度僕も何かお願いしたくなっちゃった」
「そっか? 克己なら格安で引き受けてやるぜ」
「ホント? 嬉しいな、ありがとう。そういえば、龍也が今度新しい別荘が欲しいとか言ってたから…話してみようかな?」
「龍也? 知り合いか?」
「うん、ま…ね」
どこかで聞いたような名前と思いつい聞き返してみると、その瞬間、克己の白皙がパッと朱に染まった。
ちょっと照れたようなどこかはにかむような感じで、一瞬悟も息を呑む。
(へぇ…やっぱ美人だな。花も恥らうっていうか…こりゃあ…)
相手の男は苦労するだろうなと何の躊躇いもなく思ってしまったところが問題である。
何故、女 ―― 彼女と思わなかったのか。まぁコレだけの美人では、なまじっかな女ではつりあえないのは事実であろう。
しかし、
(そういやぁ、コレだけの美人なら、周りが放っておく気もしないが…少なくとも女っ気は感じないよな)
自分が付き合っているのも男であるから、そういう方面には全く違和感はないのだが、克己を目の前にするとそんなことを想像するのも申し訳ない気になってしまう。
単なる美人というのではなくて、余りにも清らかなイメージが強すぎるせいかもしれない。
俗世には汚されないと言うか、清廉潔白で誰の色にも染まらないというか。
そう、イメージするなら限りなく透明に近い白 ―― 誰をも受け入れて、それでいて何にも染まらない、清純なイメージ。
そんな克己が頬を朱に染めているのだから ―― 当然、周りは思いっきりどよめきの渦に巻き込まれていた。
中には ―― 携帯のカメラを向けて隠し撮りをしているOLまでいる。
そして、
ゾクリと物凄い殺気を感じて、悟はその背後を恐る恐る振り向いた。






03話 / 05話

初出:2003.12.20.
改訂:2014.10.25.

Silverry moon light