ヤキモチ焼きの年下彼氏 05


恐る恐る振り向いた先には ―― 見覚えのある人物が立っていた。
確か、初めて逢ったのは1年以上前のこと。
あまり公言できるような理由での出会いではなかったので、できればこのまま封印しておきたかったのだが、再会してしまった以上はそうも言ってはいられまい。
蒼神会系藤代組組長、藤代龍也。日本でも有数の暴力団組長で、不本意ながら悟とは面識があった。
しかし、なんでこの男がここにいるんだと思い ―― その答えはすぐに判明した。
「あ、龍也?」
店の全てが凍りつくようなオーラを撒き散らしている龍也に向かって、目の前の天使がニッコリと微笑んだのである。
「何で僕がここにいるって判ったの? まだ談話会が終わる時間じゃないんだけど…」
今日は学会の談話会だからと言って出かけた克己であるが、アルコールが入りそうになったのと肝心の話が終わったのを見計らって実は途中退場してきていた。
となればさっさと部屋に戻っても良かったのだが、たまにはウィンドーショッピングもいいかなと会場をあとにしたところで雨に祟られ、飛び込んだ軒先で悟と意気投合したのである。
しかし、そんな事情を把握している龍也ではない。
「偶然近くを通りかかっただけだ。この人だかりに、まさかとは思ったがな」
実は、常に身につけさせている発信機が、まだ会議が終わる時間ではないのに移動したのを不審に思った龍也が、加賀山に命じて探させた ―― というのが事実である。
流石にピンポイントで見つけるのは至難と思われたが、この人だかりに気が付けば後は楽勝であった。
「まさかお前たちが知り合いだったとはな」
そう言って当然のように克己の隣に腰を降ろすと、龍也は思いっきり悟を睨みつけた。
当然 ―― その視線の意味に気が付かない悟ではない。生憎こちらは克己とは違い、カンと察しのよさには定評があるのだから。
「知り合いってモンじゃないさ。この雨で雨宿りしてたら意気投合しただけだぜ。それよりも俺としちゃあ、あんたと克己が、って言う方が意表だったけどな」
タツヤという名前は、はっきり言ってどこにでもあるもの。
だから克己の口からその名前が出たときはまさかとは思ったが ―― こうまでカンがいいのも問題ではなかろうかと思ってしまう。
(しかし…まさに美女と野獣、天使と悪魔だな)
初対面のときから食えないやつだとは思っていたが、克己がいるといないとでは大違いである。
精悍でいかにもウラの世界に生きるものというイメージは相変わらず。
だが、当然のように克己を横に侍らせた姿は ―― はっきり言って自分のモノを見せびらかしているとしか思えない。
それが、何を勘違いしたか自分に対する牽制だということも、悟には判りすぎるくらいにわかってしまった。
(へぇ…つまりは克己がコイツの弱点ってわけか…)
それを知ったからどうするというわけではないが、人の弱みを知るということは面白いことである。
ましてや、相手は年下とはいえヤクザの組長。
ところがそんな悟の悪戯心も、克己の無邪気な言葉にすぐさまかき消された。
「何だ、悟と龍也ってお友達だったの? 昔からのお知り合い?」
一応、龍也のフロントカンパニーは不動産も入っている。だからその関係かと推測した克己であったが、
「「違う ―― !」」
この状況でどこをどう見ればそういう風に思えるんだと突っ込みたい龍也と悟である。
しかし、
(一言でも余計なことを言ってみろ、この場で殺すぞ)
と、龍也の視線が威嚇していることを、悟はすぐさま感じ取っていた。
龍也と悟があったのは、まだ小柴組がこの世に存在していた頃のことで、その抹殺のために手を組むという話をしたのが最初だったから。
そしてその後小柴組は崩壊したが、その寸前で龍也が手痛い目にあっていることを悟も聞き及んでいた。
(あれ? でも、克己が藤代の相手ってことは…)
小柴の幹部、栗原が龍也の恋人を誘拐したということは、飛島から聞いていた。
あの狂犬のような栗原が、こんな美人を監禁して ―― ただで済むとは思えない。
龍也としてはあのことに関わりのある人間は一人残らず抹殺したいところであろう。
下手をすれば、勿論悟とて容赦はしないと思える。
(まぁ、克己ならそれも判るか。だとしたら触らぬ神になんとやら、だな)
これは下手に鹹かったりすれば、こっちの命まで危ないというものである。
早々に退散を決め込むのが一番と思ったその時、
「悟さん、中々連絡がないので心配しましたよ。そろそろお戻りいただけますか?」
そう声をかけてきたのは、飛島であった。






04話 / 06話

初出:2003.12.20.
改訂:2014.10.25.

Silverry moon light