合鍵をどうぞ 06


ちょっと火傷した舌を労わるように絡められて。
ゆっくりと祐介の手からカップを受け取ると、尚樹はKissを続けたままでそれをテーブルに戻した。
そして更に深く味わうように祐介をソファーに押し倒して、やっと解放されたときには頬は上気して熱を帯びていた。
心持ち瞳が潤んで、まるでずぶぬれになっていたところを拾われてきた子猫のように震えている。
だから、
「そんなに不安そうな顔をするなよ」
尚樹が苦笑交じりにそういうと、祐介はビックリしたように聞き返した。
「え?」
「俺が信じられないか?」
「そんなことないですっ!」
「だったら、もっと自分に自信を持て。お前は、この五十嵐尚樹を虜にしている男だぞ?」
そんな冗談交じりの言い方をされても、逆に祐介の不安は増すばかりで、
「そんな…僕にそんな価値はないですよ」
と伏せ眼がちに言うと、すっと一筋、涙が頬を伝わった。
「…祐介」
その涙を唇でそっと拭い、尚樹は小さな祐介の身体を抱きしめた。
「自信なんて、本当は誰も持ってないのかもしれないな」
優しく包み込むように祐介を抱きしめて、尚樹はふとそんなことを呟いた。
「特に…好きな相手には誰だって不安になるものだろう。さっきの克己兄さんたちだってそうだよな。じゃなかったら、わざわざこんなところまで迎えに来たりはしないさ」
「でも…ヤクザさんなんですよね、あの人。そんな人が不安になんかなるものですか?」
「ヤクザだって人の子だ。それに相手が克己兄さんじゃあ不安なんてものじゃないと思うな」
尚樹の腕に抱きしめられて見上げると、苦笑している尚樹はまるで他人事のようで、ほんの少しだけ祐介も安心していられた。
確かにあの天真爛漫な克己であれば縛りつけることは出来そうにないし、そもそも警戒心も薄いのだから心配は尽きないと思えるわけで。
「それに、俺だってお前相手にはいつも不安だよ。無茶して泣かせやしないか、ってな」
「そんな…」
「だが…例え泣かせても手放す気は全くないからな」
急に目が真剣になって、まるで射抜くように祐介を見つめると、尚樹はその細い顎に指をかけ、クイっと上を向かせた。
ちょっと怯えた瞳が、しかし逃げることなく尚樹を見つめて。
震える腕が、しかし逃げることなく尚樹の背中に回されて。
「放さないで…いてくれます? ずっと?」
「ああ、勿論」
「…嬉しい…です」
ポツリと呟く声は歓喜に震え、語尾は尚樹によって塞がれていた。



まだ片づけが終わりきっていない寝室の唯一存在感を示すベッドの上で、祐介は一糸も纏わぬ裸身を尚樹の前に惜しげもなく晒していた。
あまり日に焼けていない白い肌は、流石にこれからの行為に震えが止まらないが、
「可愛いな、祐介」
「やっ…恥かしいです…」
まだ子供の幼さを残した自分と比べて、尚樹は既に大人の身体である。
服の上からでは余り気がつかなかったが適度に鍛えられた身体はまぶしいくらいに野性味に溢れていて、触れ合う素肌が焼け付くように熱く感じられた。
「祐介…」
軽く啄ばむようなバードキスをして、そっと項に唇を這わせて。
息を吹きかけながら耳に囁けば、
「やっ、ん…」
無意識に洩らされた声は、出した本人が驚くほどに艶っぽい。
(やだ、何、今の声?)
驚いた祐介は慌てて手の甲を口に当てて塞ぐが、
「そんな勿体無いコトをするなよ。もっとお前の声を聞かせてくれ」
「え? あ、待って、先輩…」
両の手を頭の上で一まとめに押さえられ、祐介は羞恥に赤面する。
しかし、そんな反応も尚樹には愛しく見えるだけで、
「我慢しなくて良いからな。感じるままに自分を解放しろ」
そう言って徐々に唇を項から胸元へ、そして胸の飾りへと這わせていった。






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初出:2004.04.26.
改訂:2014.09.28.

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