Pussy Cats 05


この部屋に住んでいるのは自分ひとり。ただしここ数日はもう一人同居人が増えているのは確かだが、あいにくその人物のものとは明らかに異なる靴がもう一足。
しかもそれは慶一郎や直哉よりも若干小さめであり、当然男物である。
「…直哉?」
そっとリビングのドア開けると、そこは照明を一段落としてあって、更にソファーには誰かが眠っている気配があり ――
「あ、慶一郎? お帰りなさい」
その声は、リビングの先のキッチンから聞こえてきていた。
「誰か来てるのか?」
自然と声が低くなり、どこか機嫌が悪そうになるのは仕方がない。
自分の留守中に知らないヤツを引き入れた ―― とは思いたくない。
だが、そこに誰かがいるのは事実で ―― 。
人見知りの激しい直哉が、他の男を部屋に入れるなんて許せないと思った。
そう、その顔を見るまでは。
「うん、それがね、ついさっきまでルーと遊んでたんだけど、寝ちゃって…どうしようか?」
そういわれてその寝顔を覗き込み ――
「…マジかよ?」
幼子のようにタオルケットを握り締めて、ルーチェと2人 ―― 正確には一人と1匹で丸くなって眠っている。
それは紛れもなく、今頃は尚樹が血眼になって探しているはずの祐介であった。



ドアが開けられると、そこには思いっきり複雑な表情をした慶一郎が立っていた。
「よ、お早いおこしで♪」
「…邪魔する」
尚樹が一人と気が付くと、ちっ、深山のヤツ、逃げたなとでも言わんばかりの慶一郎はがっくりと溜息をついたが ―― 生憎そんなことに構っている余裕も尚樹にはなかった。
態度は堂々と、だがあくまでも静かに部屋に上がると勝っ手知ったるという感じでリビングに向うと、
「あ、五十嵐君、今晩は」
中にいたのは直哉と、その傍ですやすやと眠っている祐介。
一瞬、ジロリと威嚇するように尚樹が慶一郎を見るが ―― お前のお手つきに手を出すほど、俺は飢えてないし、命知らずじゃねぇよ!とでも言わんばかりに、慶一郎はぶるぶると首を振ってみせた。
「どういうことだ?」
そっとソファーに近づいて眠っている祐介の髪をかき上げれば、うっすらとその頬に涙のあとが見て取れる。
「うん、あのね…」
そこはかとない気配を察して目を覚ました子猫を抱き上げると、直哉はポツリと話し始めた。
つまり ―― あの少女達の誹謗を真に受けて、自分が尚樹には相応しくないと思ってしまったと。
尚樹がまだ、克己のことを好きなのではないかと思ってしまって、
克己兄さんの代わりになんかなれない ―― と。
(あの連中…やっぱりどこぞのソープにでも売り飛ばしてやればよかった)
女だからと手加減するのではなかったと、今更ながら忌々しく思えてくる。
だがそんな尚樹の内心を察したのか、
「ま、元はといえばお前の自業自得だろ? ちゃんと唐沢に説明してやれよ」
「…貴様には言われたくはないな」
「焼くなって、尚樹。俺はちゃんとコイツに言ってるからな」
年中発情期の貴様と一緒にするなと言ってやりたいが、それよりも今は祐介が大事だ。
「まぁいい、世話になったな。このまま連れて帰るから、タクシーを呼んで来い」
「…それがヒトに物を頼む態度か?」
とかなんとか言いながらも、このままここに居座られては ―― 慶一郎も困るはずだ。ブツブツと文句を言いつつ電話をかけに行くと、
「好きな人のことなら、どうしても不安に思っちゃうものだと思うよ。しっかり捕まえてあげてね」
ずっと一緒だったという直哉にそう言われて ―― 恐らく祐介と話したのだろう。同じような立場だからなんとなく判るという言葉は、確かにやや心に痛い。
「この借りは返さないとな。悪かったな、新開」
「ううん、色々話せて ―― 僕もちょっとすっきりした。また遊びに来てって伝えてくれる? この子も祐介君のことがとっても気に入ったみたいだから」
勿論、今度はちゃんと尚樹に断ってからねと直哉が言うと、まるでその通りとでも言うように、腕の中の子猫はみゃあと一啼きした。
その一方で、慶一郎は後ろで不満そうにたっている。
「そうだな。そうさせてもらおう」
「おいおい、ここは児童相談所じゃないんだからな」
「ああ、その時はお前はここにいなくていいからな。ちゃんと生徒会の仕事を押し付けてやる」
「頼むからそれはやめろって…」
そんなやり取りをしているうちにタクシーが到着して、尚樹は眠っている祐介を抱いたまま、車に乗り込んだ。






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初出:2004.07.12.
改訂:2014.09.28.

Silverry moon light