Pussy Cats 06


生乾きの服を脱がせてベッドに寝かせると、祐介はようやく目を覚ました。
「あ…れ? 尚樹先輩…?」
「 ―― 起きたか?」
怒るつもりはなかったのだが ―― やはり苛ついた感情はそう簡単に消せやしない。つい、ぞんざいになったようで、ビクリと祐介が身を竦ませる。
「あ、あの…」
「あれほど『まっすぐ帰れよって』言ったのに、困ったヤツだな」
そんなことを言われても、この状況が飲み込めていない祐介には ―― なんのことだか今一つ判っていないようだった。
但し、尚樹が怒っているらしいというのだけは気が付いているのは確かだ。
まるで親に引き離された子猫のようにおどおどと見上げて、首を竦ませていられると、絶対にこっちが悪者にしか思えない。
だが、
「そんなに俺が信じられないか?」
細い両の手首をベッドに押さえつけて見下ろせば、祐介は今にも泣き出しそうな目で俺を見上げた。
「そんなことは ―― 」
「じゃあ、俺を信じろ。俺だけを信じればいいから」
「先輩…」
見上げる瞳が黒く潤んで、すっと一筋頬を伝う。その軌跡に唇を這わせると、
「…ごめんなさい。僕…だって…本条先生みたいに…」
「馬鹿なヤツだな。お前はお前だろ? 誰の代わりでもない、俺はお前がいいんだから」
そう言って抱きしめると、祐介は震えながらも尚樹の背中に手を回した。
ぎゅっと抱きしめれば細い身体がしなるように腕に入り、何の抵抗もなく肌のぬくもりを感じる。
こういうときは素直なのに、何でこんなに自信がないんだ ―― と思うが、そんな危ういところも可愛いというのも事実ではある。
だが今日は ―― その危うさを取り払って自分だけを、自分だけしか見えないようにしたいと思ったから。
だから ――
「さて…と。散々心配かけたのは判ってるな、祐介?」
「え? あ…はい…」
突然身体を離して見下ろせば、流石にばつが悪いように祐介はビクっと身を竦ませた。
「悪い子にはお仕置きが必要だと思わないか?」
そんな風にニヤリと意地悪く囁くと、流石に祐介も状況の悪さを認識したようだ。
「お仕置き…ですか? え? 何…?」
何せ既に服は脱がされて、腕もベッドに押さえつけられていると言う状況で。
となれば、ヤル事は目に見えて ―― 祐介の白皙にサッと朱が走った。
「あ、あの…先輩? その前に僕、せめてシャワーを…」
「シャワーなら慶一郎のマンションで入ったんだろ? それは却下だな」
「え、でも…っ…」
いつも最初は恥らって、何とか逃れようとするところがいじらしい。
「やっ…先輩、電気切って…」
「今日はダメだ。お仕置きだからな」
「そんな…やだっ…恥ずかしい…///」
必死に顔を隠そう首を振るが、そもそも既に押さえ込まれているのだから出来るはずもない。
それに、
「じゃあ、恥ずかしいなんて言えなくしてやろう」
ふとあるものを思い出してそう言うと、尚樹はサイドチェストに手を伸ばした。
一番上の引出しから何やら取り出すと、尚樹はおもむろにそれとテーブルのコップの水を口に含み、祐介の唇を奪った。
「えっ…あっ…んんっ…?」
人肌の液体が尚樹の舌とともに祐介の口内に流し込まれ、更に何かが入ってくる。
咄嗟に何かと驚くが、巧みに舌でつつかれたため無意識に飲み込んでしまったようだ。
「な、何、今の…?」
判らないものというのは流石に不安で、だから祐介は尚樹から解放されると整わない息も構わず問い掛けたが、
「自信がつくおまじない」
そう応える尚樹の声が、どことなく楽しいそうに思えるのは気のせいではない。
「自信…?」
「ああ、恥ずかしさなんか吹っ飛ばせるぞ」
そう言ってニヤリと笑うと ―― そのどこか意地悪な笑みにゾクリとした途端に利いてきた様だった。






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初出:2004.07.19.
改訂:2014.09.28.

Silverry moon light