Finding me 02


びしょ濡れになった上はシャツを羽織っているものの、素足を剥き出しにしたひどく煽情的な姿。
どこか遠くを見ている ―― いや、何処も見ていない瞳。
そして、
「おい、どうした?」
相手は年下とはいえ一応は客だ。
しかしその尋常でない姿にそれさえも忘れ去り、幸洋は彼に声をかけた。
そっと肩を揺すってこちらを向かせると、更に幸洋の目を引くものがそこにあった。
白い首筋にくっきりとついた紫色の痣の痕。
まるで、何かで首を締められたような ―― 。
「何があった?」
軽く頬を叩いて正気づかせようとすると、体にビクンと弾けるように震えが伝わった。
呆然とした表情に、瞳は色を失っている。
「あ…久哉が…」
少年はゆっくりと腕をあげて部屋の奥を指差すと、ふらふらと壁に身体を預けた。
それをそのままにして、幸洋が部屋の中に入る。
最初に気がついたのは、ザァザァと流れる水の音。
それから、バスルームから漂う、むっとした鉄の匂い。
そして ――
―― ドサッ
廊下であの少年がスローモーションのように床に倒れていった。



空いていた部屋に少年を担ぎこむと、幸洋はバスタブにお湯をはった。
幾らなんでもこのまま寝かせるのは気が引ける。
首筋の痣もそうだが、身体中いたるところにキスマークがつけられ、しかも下半身は後始末もされていない。
その手の経験もある幸洋には、このままではあとで大変なことになる事がわかっていたのだ。
そしてその間に先ほどの部屋に戻って、少年のものと思われる荷物をとりあえずかき集めた。
さらに念のためシーツも取り替えて、あの部屋から少年の痕跡を消す。
事情がどうであれ、こんな子供が大の大人 ―― しかも男と心中なんて世間的にもヤバイだろ。
あとで警察にばれたら、そのときは父親という名のあの男に頭の一つでも下げれば何とかなるし。
そんなことを考えながら何気に少年の荷物をまとめていると、服のポケットから少年のものらしい定期が落ちた。
「川原郁巳…か。ん? 川原…? あ、まさか…」
定期に書かれた名前をみて、やっと思い当たる節を見つけた。
正確にはその苗字。
そういえば、あいつに ―― 同じ高校の後輩が連れていた公式彼女に良く似てる。
悪いがこういうカンは結構当たる方だし、外れたとしても、あいつなら巻き込んで損はないだろう。
となれば話は早い。
幸洋は少年を運んだ部屋に戻ると、すぐさま携帯でその後輩を呼び出した。
「尚樹か? 俺だ。ちょっと出てこい」






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初出:2004.01.24.
改訂:2014.09.13.

Studio Blue Moon