Finding me 07


翌朝 ―― 10時ジャストにチャイムが鳴った。
「お邪魔します。あ、先輩、お気遣いは無用ですから、とりあえず尚樹と席を外してください」
姿を見せるなりそう言い放ったのは ―― 見間違うことない俺の姉、川原弥生。
ちなみにその後ろには最近付き合い始めた尚樹先輩もいたけど、
「おい、弥生…」
「尚樹、聞こえなかったの? 郁巳と二人きりにしてって言ったの」
一見だけでは純和風の大和撫子系美人 ―― 但し、口さえ利かなければ。
14年もこの姉貴の弟をやっているが、はっきり言って姉貴に口で勝てるヤツを俺は見たことがない。
もちろんそれはあの尚樹先輩や貝塚さんも同様のようで ―― 。
「判った。だが、あんまり郁巳を苛めるなよ」
「それこそ余計なお世話ね。さっさと出て行って」
怒鳴り散らすというわけではないが、問答無用は相変わらず。
だから、
「…判った。じゃ、前の公園にいるから、終わったら声をかけてくれ」
そういうと、貝塚さんは何事もないように部屋を出て行った。
パタンというドアの閉まる音と共に気まずいムードが覆い尽くす。
「紅茶でも淹れてくるわ。そのくらいあるでしょう」
そういうとキッチンに行ってポットに紅茶を注いでくる。
こんなときだけど、はっきり言って姉さん自らのお茶なんて ―― 生まれて初めてだ。
「あ…の…姉さん?」
「飲む前に、郁巳ちょっと顔貸しなさい」
というなり、姉さんの平手が飛んできた。
―― バッシーン!
「っ痛ぅ…!」
「この…馬鹿郁巳! もうちょっと相手を見て付き合いなさい! あんな金持ち道楽男のどこが良かったっていうわけ!」
叩かれた右頬を押さえて眼をパチクリさせて。
でもそれだけ言うと、姉さんは何事もなかったようにカップに手を伸ばして口を付けた。
「…ま、済んだコトは仕方がないわね。お祖父様にはテキトーに誤魔化してあるから心配は要らないわ。ゆっくり休んで早く元気になりなさい」
そう姉さんが言うなら ―― 多分家のほうは大丈夫だろう。
そう思ったら、またジンと目頭が熱くなってきた。
「 ―― ごめん…なさい…」
やば…涙腺が緩んでる。ま、姉さんには隠し事なんてできないことはわかってるけど。
一方の姉さんのほうは、そんな俺を見ないようにしてくれているのか、
「侘びなんていらないわ。風月堂のアフタヌーン・ティで手を打ってあげるから」
というと自分で淹れた紅茶を楽しんでいた。
「流石、私ね。何をやっても上出来だわ」
「…俺、姉さんの淹れた紅茶って初めてだよ」
「そうかもね。いい女の条件は、『どれだけ男に尽くさせるか』ですものね」
…いや、それは違うと思うんだけど。
でも、そんなことを言ったら ―― 殺されかねない。
「だからね、郁巳。貴方も尽くしてくれるいい男を早く見つけなさい? あ、勿論、女の子でもいいけどね」
「普通、女の子じゃないの? 俺の場合は?」
「今更、宗旨替えできるならね。別に私は貴方の相手が男だろうと女だろうと構わないわ」
そんな爆弾宣言を平気でかましてくれる姉さんに、ホント、つくづく ――
「適わないな、姉さんには。…ありがとう」
「馬鹿ね、だから言ってるでしょ。言葉でのお礼もいらないの。さしずめアンジェリーナのオリジナル・モンブランでいいわよ」
そう言ってくれる姉さんに、俺はくすぶっている全てを打ち明けてしまった。






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初出:2004.02.07.
改訂:2014.09.13.

Studio Blue Moon