邂逅 11


ユギがマハードを選んだことによって、他の少年達はそれぞれ元の地に戻されることになった。但し、
「シモン殿。折角選りすぐった者達だ。一人、見習いとして我が神殿に召したいが、よろしいか?」
アクナディンがそう告げたのは朝の会議が終わった後の帰りしなであった。
「それは構わぬが…弟子は取らぬと言っていた貴公が珍しいですな」
アクナディンが治めているのは『石版の神殿』。神の石版の元に邪悪な魔物を封印する聖なる場所である。
その『石版の神殿』は、無数の魔物を擁するがために並大抵の魔力の持ち主では入ることもできない禁断の地で、常に霊力の維持を強制される。それゆえに六神官の長として絶大な魔力を持つアクナディンとて、神殿からあまり遠くに離れることはできない。
つまりその地位を継ぐものは、一生を『石版の神殿』に囚われることになると言うわけで ――
『王弟である以上、私が王の影となるのは当然のこと。だが、私亡き後はこの魂を石版に宿し守護するゆえに、後継者は必要なかろう』
(確かそう言っておったはずなのに…どういう気の変わりようじゃ?)
そうシモンが不思議に思うのも無理はない。
しかも王子の学友にと選んだ少年達と言うことは、どれもまだ幼い者達であるはず。そんな子供を神殿に縛り付けるようなことをしようというアクナディンの真意が、シモンには訝しかった。
しかし、
「本人も望んでおってな。アブシールのヘイシーンの元におった神官見習いなのだが」
「おお、確かセトとかいった子供じゃな。今回の中では、一番の優秀者と聞いておる」
セトが言いがかりをつけてきた豪族の息子を言い負かした話は、既にシモンの耳にも入っていた。本来なら、そういう知者を王子の側近にしたかったのだが、アクナディンの弟子になるなら、いずれ王子が即位した折には仕えることも可能というものである。
「本人が望むのであれば反対はせぬ。貴公にお任せしましょう」
そうして、セトは王都に残ることになった。



余り仲が良かったと言うわけではないが、それでも数日は一緒にすごした者たちだから、マハードは彼らが王都を旅立つ日、外門まで見送ることにしていた。
勿論、一番の気がかりはあの日以来逢うことがなくなってしまったセトであって。
しかし、
「あれ? いませんねぇ。おかしいな」
一応、王命で集められた子供達である。それぞれの里へもきちんと護衛がついており、そのために出立はきちんと定められているはず。
しかし、その一団にマハードが探す人物はなかった。
「なんだ? お前が言ってたヤツはあの中にいないのか?」
「はい、いません。おかしいですね…って、王子! 何でここにいるんです?」
一応、今日の外出は側役のシモンには断ってきたマハードであるが、当然ユギまで一緒なんていう話は聞いていない。
「ん? だってお前がどっか遊びに行くみたいだったから。付いてきただけだぜ」
「シモン様にご許可は…とってませんよね、勿論」
「当たり前だろ☆」
「…」
ユギに仕えることになってまだ数日。だが、この王子がとんだ食わせ物ということは既に骨身に染みている。
(…ううっ、またシモン様に怒られるぅ〜!)
『悪いなぁ〜マハード。ま、これもシモンがボケないための敬老精神と言うことで、相手してやってくれな♪』
と、つい先日もユギの代わりに3時間ほどのお説教を押し付けられたのは記憶に新しい。だから、
「仕方ないですね。じゃ、帰りますか」
(少しでも速く帰れば、まだ間に合うかも?)
もしかしたらまだユギが王宮を脱け出したことはバレていないかもという、甘い期待を持って。だが、
「なんだよ、もう帰るって? 折角街に出たんだぜ?」
「でも、シモン様に(私が)怒られますから」
と言ったところで、そう簡単に聞き入れる王子ではない。
「やっぱ、気になるな。よし、そいつを探しに行こう!」
と言い出せば ―― もはや留める術はマハードにはない。
「王子ぃ〜」
「街に出たら『ユギ』って呼べって言ったろ? ほら、行くぜ!」
そう言ってその一団に近づくと、手当たり次第にセトのことを聞き出した。勿論、ユギ自身の身分は明かさずに ―― である。
だから、
「セト? ああ、アイツなら神殿に仕えることになったって言う話だぜ。大方、どっかの神官に色仕掛けでもして誑かしたんだろう?」
そう吐き出すような台詞を聞きだすと、ユギは最近、アクナディンが弟子を取ったと言う話を思い出していた。






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初出:2004.05.26.
改訂:2014.08.16.