感応 04


「あのジジィ、セトをどうするつもりだ?」
離宮の図書室に突然現れたかと思えばセトを連れ出したアクナディンの後を追って、バクラもまたこの『石版の神殿』に足を踏み入れていた。
流石にこの地は結界が張られているとは知っていたため、さてどうやって入ろうかと思ったのだが ―― 何と、何気に手を触れれば、逆に吸い込まれるように中へ入ることが可能だった。
むしろ、試しに外へ出ようとしてみると、
「 ―― っ!」
触れた手の先から体中へと電流のようなものが走り、かなりの衝撃ではじかれてしまった。
「何だよ。このオレ様を封印でもするつもりか?」
この地は邪悪な魔物を封印した神殿。その中へ吸い込まれて出ることができないということはバクラ自身もまた大いなる邪悪に満ちているということに他ならない。
「…ッチ、まぁいい。それよりもセトだな」
そしてそのセトを連れ出したアクナディン。
あの千年眼の埋め込まれた顔を、バクラは忘れるはずもなかった。
かつて、バクラの故郷であったクル・エルナ村を襲った惨劇。
あの惨劇を引き起こした六人の神官。
その中でも筆頭にいたのは ―― 紛れもなくあの男で。
生きながら贄として捧げられる者たちの呪詛の声と、それを笑いながら突き落とす兵士たちの狂気の笑い声。
そして気が狂いそうな血臭と焼け爛れる肉の臭いの入り混じった地下神殿で行われた邪悪な儀式。
その全てを見ていたバクラに、見間違えるはずもない。
「まさかこんなに早く再会できるたぁ思わなかったが…まぁ、いい」
まだセトには利用価値がある。今、アクナディンに奪られるわけにはいかないから。
目指すは全ての始まりともいえる魔道書の眠る宝物庫。
その場所は、今のバクラには漂う魔物たちが教えてくれているから、
「元を正せばセトは貴様のものだが…まだやるわけにはいかねぇんだよ」
邪悪な笑みを浮かべると、バクラはまっすぐに宝物殿へと向かっていた。



招かれた宝物殿の地下には禍々しい祭壇があり、そこには封印呪を何十にもかけた石棺が祀られていた。
「あの中に、そなたに見せたいものがある。手にとって見るが良い」
「…判りました」
迷うことなく祭壇に上がれば、封印呪は自らその任を解き、セトはなんなく石棺の蓋を開けた。
中に入っていたのは古い魔道書と黄金のアイテムが二つ。
「…まさか、これはっ !?」
同じ色で輝く黄金は、アクナディンの眼窩にある。
(千年宝物 !? だが、何故これを?)
自分の才能には確かに自信があるが、だが未だ正式な神官ですらない身である。それなのに何故こんな大事なものをと思えば ――
「構わぬ。触れてみよ」
振り向いて見下ろせば ―― アクナディンの眼窩に宿る千年眼は鈍く光り、セトの一挙一動を見守っていた。
(どういうつもりだ、アクナディン様は…?)
中に入っていた千年宝物は、千年錫杖と千年リング。
そして千年宝物は数あるエジプトの神官でも最高位と称される六神官にのみ所有の許される代物。
間違った者が触れればその強大な力は恐ろしい刃となって触れたものを切り裂くという。
だがそんなことまでは知らないセトは、一時の躊躇は仕方がなくも、意を決すれば迷うことなく千年錫杖に手を伸ばした。
(やはり ―― それを選ぶか。セトよ)
「 ―― っ ! ?」
その瞬間、全ての灯りが消え辺りは闇と同化していた。






感応 03 /  感応 05


初出:2004.08.25.
改訂:2014.08.23.