Resurrection 04


祝詞が佳境に入ると、クリスの佇む魔方陣の上空に月が落ちてきたような閃光が走った。
「くっ…!」
光の刃がクリスの身体を貫き、その圧倒される重圧に息を呑む。
しかし、
「来た…か…?」
列柱群の中だけに吹き荒れる暴風は、息をつくことも許さぬほどの凄まじさを誇っている。
だがその中心にいながら、クリスは揺らぐこともなく懐から一枚のカードを手に取ると、高らかに掲げてその名を叫んだ。
「出でよ ―― ブルーアイズ・ホワイトドラゴン!!」
―― ゴォーーッ!
姿を現した白き聖獣は列石の上にその身をくゆらせると、ゆるりとクリスを見下ろした。
いつしかイシュタルの祝詞は終わっており、そこは再び静寂の中に包まれていた。
唯一つ違うのは、まるで月光が形を持ったような輝きを放つ白竜が闇を引き裂いていると言うことだけ。
「ブルーアイズ…」
クリスとその聖獣の間にあるのは、イシュタルが用意した魔方陣だけである。それがどのような効果を示しているかは判らないが、少なくとも聖獣もその中にだけは入れないらしい。
但しこのままでは ―― ただ時を費やすのみである。
だから、先に動いたのはクリスの方であった。
真直ぐに、猛々しく咆哮する聖獣へと近づいていく。
「クリス? いけません、そこから出ては ―― !」
クリスの信じられないその行動に、イシュタルの驚愕に満ちた声が響く。
無論、聖獣自身もそれに気付き、ゆっくりと鎌首を持ち上げるとその蒼い瞳をクリスに向けた。
「ブルーアイズ…いや…」
魔方陣を出て聖獣の身体にそっと手を伸ばす。
そして、まるで遥か昔から知っていたかのように、脳裏に浮かび上がったその真実の名を口にした。
「…イブリース」
―― クゥ…ルル…
ふっとそれまでの猛々しさが一蹴され、まるで子猫のように聖獣 ―― 『青眼の白龍』はクリスの手に自らの頭を添わせた。
それはまるで、忠実な僕が最愛の主人に甘えるようで。
迷子の子猫が愛する飼い主の下にやっと帰りついた喜びを現すようで。
「そんな…あの聖獣を ―― ?」
千年タウクの力を持ってしても読むことが出来なかった『未来』を見せ付けられ、イシュタルはただ言葉を失うのみだった。



一方で ――
ソールズベリーの平原に忽然と姿を見せる巨石の列柱群。
見まごうこともないその地がヘンリーやジョーノの視界に入ったその時、
―― ゴォーーッ!
凄まじい風圧と共に、月の化身のような光り輝く物体が低空を霞め、ストーンヘンジの真上に姿を現した。
「あ、あれは…」
神々しいまでに光り輝く聖なる獣。
何人たりともそれを従えることなど出来ないと思わせる、白き聖獣。
その姿を、遠巻きとはいえ目にしたヘンリーとジョーノは、圧倒される絶対的な力を感じ、ただ言葉を失っていた。
数多い竜族の中でも、最高位を誇る光り属性の幻の聖獣。
「ブルーアイズ・ホワイトドラゴン…」
「あ、あれが…伝説の…?」
この世に現存するのはただ3枚のカード。しかしそのうち2枚は行方不明で、ただ1枚だけをヨーク家が所有しているという話は、噂で聞いていた。
だが、それを操るものは更にいないと ―― 。
光り輝くその高貴な姿にジョーノが言葉を失っていると、ヘンリーはそこに1人の人間の姿を確認していた。
まるで、今そこに顕現している聖獣が生まれ変わったような高貴な姿で。
相手も気が付いたらしく、青眼に向けていた視線をゆっくりとヘンリーの方へと移動させた。
夜目にもわかる白皙の肌に、海よりも空よりも深い、蒼穹の瞳。
(あれは ―― !?)
その一瞬で、ヘンリーは自分が探していたものの正体を確信していた。






Resurrection 03 / Resurrection 05


初出:2003.11.12.
改訂:2006.07.19.

Atelier Black-White