Declaration 05


英国の冬は天候も悪く兵士の士気にも関わるとして、互いに水面下での駆け引きが密かに行われていた。
元々、現国王であるリチャード3世の評判は芳しくない。外見は若く美丈夫であったが、その冷徹な猜疑心と粛清の嵐に、貴族の大半が恐れを感じていたのは事実である。
故に多くの貴族はその妻子を人質として王都に住まわせることを条件とされ、人心は離れる一方であった。
それに反してチューダー軍は旗印となるヘンリーの人となりのせいか、ウェールズでは絶大な信頼を得ることができ、幾つかの大貴族が既にその旗の下に駆けつけているとロンドンにも報告が入っていた。
そして ―― 長い冬があけた春の矢先。
ついに両軍が戦端を切ることとなった。



いずれはぶつかるということは必定の事項ではあったが、その圧倒される重厚な軍容に、流石のジョーノも一瞬身震いが走った。
「流石…枯れても国王軍だぜ。物量は大したもんだ」
相手の戦力を正確に測るということは、戦を仕掛ける以上は必須のことである。そのため遠慮なく呟くが、しかしその瞳に恐れはない。
寧ろ、強大な敵と戦う喜びに満ちているといった方が正しいかもしれない。
既に宣戦布告を告げて数ヶ月。冬の寒さは兵士の士気に関わると戦端を切ることを止められていたのだ。
根っからの戦士であるジョーノにとって、それは真綿で首を絞められるような苛立ちを感じさせずにはおられず、その不満は訓練される兵士に向けられることとなる。
当然、兵士の方はたまったものではないが、元々は気性の明るい上司であるからその連帯は更に深まり、今ではチューダー軍の実戦部隊としては最強を誇る構えとなっていた。
よって ―― ここで兵を引くつもりは毛頭ない。
「相手は、どこぞの大貴族らしいぜ。どうする? ジョーノ」
副官であるフォンダが、それでも一応上官の指揮を仰ぐ。
「チッ…なんだよ、薔薇十字団じゃないのか。ま、いいか。そっちはユギに残しておいてやらねぇと、後が恐いからな」
多少の残念さは隠しようがない。相手が強ければ強いほど、それに命を懸ける楽しさはジョーノを煽ってやまない。
どうせなら国王軍最強といわれる薔薇十字団と戦ってみたかったが、その前の腕試しと思えば不足はないだろう。
それに ―― 薔薇十字団を倒すのは、やはりヘンリーしかいないから。
そう決心すれば ―― ジョーノの行動は早い。
「よし、全軍を持って目の前の敵を撃破しろ。貴族のお坊ちゃま連中を一人残らず王都には帰れなくさせてやれ!」
「「おおーっ!」」
これあるかなわが上官 ―― 副官であるフォンダは、久々に見た生き生きとした上官の姿に、既に勝利を確信していた。






Declaration 04 / Declaration 06


初出:2003.12.10.
改訂:2014.08.30.

Silverry moon light