Pledge 05


目が覚めたら ―― 腕の中にクリスがいた。
月明かりの下で見た白い肌も綺麗だったが、こうして朝日に晒された姿も愛おしい。
子供のように身体を丸めて、まるで縋りつくように眠っていて。
―― ちょっと動けば、起こしてしまいそうで。
流石に昨夜はセーブが効かず、この白い身体を自分のものにした。
本当は ―― 昨夜はただ側にいて欲しかっただけで、全てのお膳立てを整えてからゆっくりと口説くつもりだった。
もはやクリスを支配してきたヤツはいなくなったし、手元に置くことに文句を言うヤツもいないはず。
そのために戦にも勝ったし、王権だって手に入れたのだから。
だが ―― あの白い肌を見たら我慢ができなかった。
例え心を閉ざした人形のままであっても、そのキレイすぎる身体はヘンリーの理性など簡単に打ち砕く。
しかも実際に手折ってみたら ―― 人形の仮面はすぐに剥がれた。
ガラスのような眼で「さっさと犯れ」と言っていたのに、口付けを交わしただけで瞳に光が戻った。
絶対に声を出すまいとしていたつもりが、掠れるまで嬌声をあげ、泣いて許しを請う。
そんな姿が、勿論演技などではないのは判っていたし、それに ――
『…愛して…る、ユギ…』
意識を飛ばす一瞬に、かすかに震えた唇の動き。
あれは絶対に幻などではないと思いながらも、もう一度言って欲しい。
(まぁ、時間はたっぷりあるからな。慌てなくても、何度でも言わせて見せるぜ!)
そう決意も新たに、再びクリスを抱いたまま、ヘンリーはベッドに潜り込んだ。
ちょっと冷たい身体が、無意識にヘンリーに縋りついて来る。
そんな仕草にも ―― 昨夜散々我が物にしたというのに、ドキドキとしてしまう。
まるで、初めて恋をした少年のように。
「セト…好きだぜv」
「んっ…」
そっと頬に唇を落すと、ちょっと身動ぎしながら一瞬クリスが微笑んだような気がした。
流石に ―― 明け方近くまで寝かさなかったために顔色は良いとは言えないが。
それでも、その穢れを知らない美貌が損なわれることは全くない。
どんなに汚されても、他人に染まることのない孤高の白薔薇。
まさにそんなイメージに相応しい最愛の人で ―― 。



「ユギ、そろそろ支度の時間なんだけ…ど?」
流石に一兵士には行かせられないし、かといって邪魔などしたら殺されかねないというのも判っていたが、そろそろ本日のメインイベントへの準備は進めなくてはいけない。
だから ―― ヘンリーを呼びに来たジョーノは、その専用の天幕の中をそっと覗き見た瞬間、見事に硬直してしまった。
「ああ、ジョーノ君、お早う」
「あ、ああ…」
「まだクリスが寝てるんだ。先に準備をしていてくれ」
台詞だけを聞けば何のことはないが ―― ジョーノを見るヘンリーの目には明らかに「邪魔するとオシリスの攻撃だぜ♪」と告げている。
ベッドの上には、片膝を立てて身体を起こしたヘンリーがいて、
そのすぐ隣では、安らかな眠りについているクリスがいた。
いつもの高邁無敵、唯我独尊な気配はサラサラなくて。
どう見たって仲睦まじい、ロイヤルカップル。
もしくは ――
「ジョーノ君?」
固まってしまったジョーノに、流石にヘンリーも苦笑する。
『な♪ 俺のセトは美人だろう♪』
と見せびらかしたいのは山々で ―― その野望もあと少しで達成されるから。
「そうそう、クリスの服もこっちに持ってきてくれよ♪」
「って…マジにアレを着せるつもりかよ」
「勿論だぜ。そのために用意させたんだからな。俺のセトは何を着ても似合うだろうし…楽しみだぜ」
そういうヘンリーはご機嫌そのもの。もはや何を言っても無駄なのは判っていたが。
(ま、青眼もカードに戻したんなら、被害は最小限で済むだろうけどな)
もしかして自分はとんでもないヤツの部下になってしまって、はっきり言って戦争中の今までよりこれからの方が気苦労に付きまとわれるのではないかという予感を感じながら、ジョーノは乾いた笑みを向けて先に準備に戻っていった。






Pledge 04 / Pledge 06


初出:2004.02.04.
改訂:2014.08.30.

Studio Blue Moon