Instrument 05


瀬人が連れて行かれた先には、ただ大きなベッドがあるだけの部屋だった。
そのベッドに下ろされると、瀬人はコウの手によって着ているものを丁寧に脱がされた。
「な…にをっ…!?」
一糸も纏わぬ姿を晒すことに、羞恥を感じないはずはない。
だが、瀬人の身体はまるで糸の切れたマリオネットのように自分では動かすこともできないでいた。
(何かのクスリか? でも何でそんな…)
意識ははっきりとしているが、身体だけが全く言うことを聞いてくれない。
恐らくは運動神経を麻痺させるといったところかと思うが、そんなことをされる理由が瀬人には判らなかった。
確かに自分は海馬コーポレーションの後継者といわれているが、あくまでも養子の身である。
まだ14歳の身では会社に対して何の特権も持っていない上に、あの剛三郎のことだ。
もしこの身を人質に何らかの脅迫をすると言うことにでもなれば、その場で瀬人を切り捨てて、新たな後継者候補を作ることだってありうる。
それにこの男との商談なら話は良いように進んでいると言っていたはずで ――
そんな瀬人の内心を見透かしたかのように、コウは覆い被さるように覗き込むと表面だけの笑顔で瀬人に囁いた。
「どうしてこんなことを ―― と思っていますね?」
そう聞かれても、応える術が瀬人にはない。
それに、応えることさえが屈辱のような気がして、瀬人は唯一自由になる瞳で睨み付けた。
日本人とは思えない蒼い瞳。それは極海の藍よりも深く、成層圏の蒼よりも澄んでいる。
「ククク…本当にいい眼をしていますね」
そんな瀬人の視線を、コウは心から慈しむように楽しんで見ていた。
この状況でも怯えを見せまいとする気丈さが愛おしい。
その一方で。
その昔、自分が同じ洗礼を受けたときのことを思い出せば ―― 許しがたい傲慢にも思えて。
ズタズタに引き裂いて屈辱と汚辱に塗れさえ絶望の淵に貶めたいと思いながら、それでも尚、孤高を保ち続けることを期待してしまう。
相反する不可思議な感情。
そもそも、ここで堕ちるか這い上がるかは、瀬人次第としかいえないのだが。
だからこそ、この存在を貶めるという役を、他人に任せる気にはならなかった。
「瀬人、ビジネスの世界では…理不尽な要求を呑まされることがあるということは判りますね?」
そんな感情を悟られないように囁きながら、コウは頬から首筋へと指を滑らせた。
途端に、瀬人の秀麗な眉が顰められ、その表情に嫌悪が浮かぶ。
「特に瀬人のように自分以外の武器を持たないものは、そうせざるを得ないこともあります」
首筋から肩口へ、そして薄い胸へと滑らせると、コウは指の跡を確かめるように唇を這わせた。
「 ―― ?」
指などとは比べようのないような嫌悪感が走り、蒼穹の瞳が揺らぐ。
だが、
「君は本当に綺麗ですね、瀬人。そして人というものは、得てして綺麗なモノほど汚したいという欲望に駆られるものなのですよ」
そう囁くと、コウは瀬人の胸の飾りを口に含んだ。
「なっ…に…っ…?」
ビクンと身体を仰け反らせ、瀬人が唇を噛む。
海馬家に引き取られてからありとあらゆる知識を叩きこまれたが、性的なことは一切縁がなかった。勿論全く知らないということではないが、それは精々男女間のことである。
ましてや自分がそんな対象とされるなどとは想像したことさえなく、
「気持ちいいでしょう? 瀬人は感じやすい身体をしていますね」
「ひっ…ゃあっ…!」
カリっと乳首を噛みながら下腹部に手を滑らせれば、既に瀬人のソレはゆるゆると立ち上がり蜜を零している。
それを先端に塗りこめるようになぞりながら蜜口に爪を立てると、瀬人の身体を打ち上げられた白魚のように跳ね上がった。
「…くっ…ぁっ…!」
「はしたないですね。もうココをこんなにして」
自分でさえそんなふうには触ったこともない場所をゆっくりと汲み上げられ、もどかしさに襲われる。
開放されたい。だがそれを願うことは堪らなく屈辱で。
だがそんな瀬人の内心などには構わず、
「今夜は初めてですからね。一度イかせてあげましょう」
そう言って巧みに汲み上げると、瀬人はあっさりとコウの手に白濁を迸らせた。






04 / 06


初出:2007.05.20.
改訂:2014.09.06.

Paine