白竜降臨 08


確かに、誰が見てもそれは「海馬瀬人」本人だと思うだろう。
日本人には珍しい、栗色の髪に青い瞳、白磁の肌。
そんな外見もさることながら、苛烈な視線に自信に満ちた態度は、いついかなるときでも揺るぐことがありえなくて。
それだけでも、目を奪われそうな神々しさで。



それが例え ―― 幼い子供の姿に変わっていたとしても。



海馬邸のサンルーム ―― 少し前まで、モクバが「瀬人」とお茶をしていた場所である。
そこに移動してとりあえず全員にお茶が配られると、一同を代表したわけではないが、遊戯(表)が確認するように尋ねた。
「つまり、モクバ君のお願いを聞いて、ブルーアイズ達が海馬君を小さくしちゃったってこと?」
「…そういうことになるのだろうな」
動揺を隠せない遊戯たちとは裏腹に、当の本人である海馬の方はいたって冷静である。
確かに姿は幼い子供 ―― おそらくは5、6歳の小学生になるかならないかといった年頃であるが、態度は17歳の頃となんら変わらない。
椅子に座れば流石に床には着かないが、それでも構わず足を組んで、肘掛に左肘を置いたままでティーカップを持つ姿など、相変わらずの優雅さそのものである。
しかも、こんなことになってしまったというのに動揺したところは微塵もなくて。
却って経緯を聞かされた遊戯たちの方がおろおろとしてしまいそうなくらいだ。
そう、モクバの話によると ―― 丁度一週間ほど前、余りに多忙で無理をしているとしか思えなかった兄を思い、つい青眼のカードに「兄サマを助けて」と願ってしまったらしい。
幾ら自分の夢のためだと判っていても、無理をしているのは明らかだったから。
せめて自分が手伝ってあげることができれば良いのだが、自分では却って足手まといになりかねないから。
だから ―― ほんの少しでも、休ませてあげたいと。
それはまさに神頼みのようなもので、切実であったのは事実であっても、まさかモクバもこんなことになるとは思わなかったのである。
だが、そう願った翌朝、いつもなら起きてくる時間になっても姿を見せない兄を心配して部屋に向かうと ―― そこには幼い姿に戻って安らかに眠り続ける兄の姿と、いつもの兄と一部の違いもない姿が3体も出現していたのだった。
「ゴメン、兄サマ。俺、まさかこんなことになるとは思わなくて…」
無論、悪気があったわけではないが、そう呟いたモクバはすっかりしょげ返って、今にも泣き出しそうな様子である。
しかし、
「気にするな、モクバ。お前に心配をかけた俺が悪かった。おかげでゆっくり休養も取れたし、仕事の方はイブリース達が滞りなく進めてくれていたようだしな」
実際、最初はどうなることかと思ったのも事実であるが、実体化した青眼たちが瀬人とそっくりだったのは、姿だけではなかった。
それぞれの得意分野は若干異なりながらも、その思考パターンは主である瀬人とよく似ており、会社や学校、それにこの屋敷内においても見破った者はごく僅かであったくらいだ。
無論、屋敷においては家政婦頭の滝山が、仕事においては秘書兼ボディガードでもある磯野には知らせてあったので、融通が付いたというのも事実である。
しかし、
「そもそも、なんで海馬君が小さくなっちゃったの? それに、幾らブルーアイズ達が霊力の強いって言っても、海馬君の姿になって実体化なんて、普通じゃ考えられないでしょ?」
そう不思議がる遊戯の言葉も尤もで。それはここにいる誰もが思うところである。
ところが、
『あ、相棒! それを聞くのは…っ!』
なにやら思い当たるところがあるのか、心の部屋から闇遊戯が必死で表遊戯を止めようとするが、
「フン、青眼たちをそこらの雑魚モンスターと一緒にするなっ!」
今までは全く人事のように気にもしないかのようだった海馬が、一瞬パッと頬を染めると慌てたようにそう叫んだ。
しかも、
「余計なことは口にしないのが身のためですよ、ファラオ」
『うっ…』
「そこの盗賊もな」
『チッ…』
まさに身動きでもしようものなら爆裂疾風弾とでも言いそうな視線で、瀬人の姿をしたアズラエルとイブリースが睨みつけている。
その上、
「大丈夫だよ、モクバ。多分、明日の朝にはせとちゃんは元の姿に戻るからね」
そうにっこりと微笑んで言うジブリールに、何故か子供の姿の海馬は頬をピンクに染めたまま、そっぽを向いたままだった。






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初出:2007.01.28.
改訂:2014.09.20.

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